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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case3

2023.2.1

CASE RECORs of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会Case 3-2023

A 16-Year-Old Girl with Abdominal Pain and Bloody Diarrhea 31.01.2023

 16歳の少女が腹痛、血便を主訴として入院しました。

  下痢は5週間前に発症してintermittent, diffuse, crampyな腹痛を伴います。4週間前からは赤褐色血の混じた下痢となりました。当初体重は98.7kg、末梢血Hb12.5g/dlです。O-157、他培養陰性、Cd toxin陰性でした。Ciprofloxacinが経口投与されますが効かなくて血性下痢が継続(日4回以上)、M.G.H.のERを受診します。倦怠感、衰弱を訴えて食思不振、体重減少と悪心・嘔吐、更には全身の関節痛と筋肉痛を認めました。既往歴に肥満、不安症、ADHDがあり初潮は11歳。嗜好に特記することなく、家族、ペットの犬、猫、トカゲと暮らしています。農業高校に通い、海、農場で動物に接触歴があります。

 家族歴に大腸癌、乾癬、celiac disease、母親には自然流産歴が1度ありました。診察しますと112の頻脈以外にバイタルサインに異常なしです。体重は減少して尚89.9kg(BMI32.7)、下腹部に軽度の圧痛を認める以外に特記すべきことありません。検査では末梢血WBC10690(<10700), Hb9.8g/dl, Plat188000、CRP248.0(<8.0), ESR71/hour(<20)です。第2病日に末梢血Hb8.9となり、2Eの輸血を受けます。内視鏡的には食道のびらんと、S状結腸から口側に連なる”multiple non obstructing, large, friable, dark-vioket lesions”が認めらます(添付するFigureからは急性期の粘膜壊死と浮腫のように見えます)。横行結腸から口側は管腔の狭細化と高度の粘膜脆弱によりスコープを挿入できませんでした。患者さんは小児集中治療室に入院となり、更に輸血を受けます。腹部造影CT所見では大腸の壁肥厚(肛門側S状結腸と直腸は異常なし)と腸間膜の”fat stranding”、併せて腎の多発低吸収域を認めました。第5病日に頻呼吸が出現して末梢血Hb8.8 Plat67000、生化学的にAST/ALT 5766/1429U/lの高度肝障害、PT-INR1.74, APTT50.0(<36.0), D-dimer>10000ng/ml(<500)と凝固・線溶異常を認めました。CT angio.では肺動脈血栓症と診断されました。

 以下、ボストン小児病院小児科のKahn先生により解説されます。

 鑑別診断は症例に関する情報が新たに加われば再考されて改訂されることになり進展するものです。則ち患者情報が①GATHERされて、② ANALYZE 、③REVIEWされます。そして ④CREATE DIFFERENTIAL DIAGNOSISされます。更に⑤REVISEされるprocessで鑑別診断が進みます。本例では大腸ポリープ/ポリポーシス、Meckel憩室、腸重積、Henoch-Sḧonlein purpura、H. pylori感染と消化性潰瘍等が鑑別されますが、何れもそれらしくありません。検査結果でCRPが著高しています。Crohn他IBDが考慮されます。更にリウマチ疾患、感染症、悪性腫瘍は如何でしょうか。本例は入院して大腸内視鏡検査がされ、腸管虚血が示唆される所見が得られます。腸管虚血に注目してCOVOD-19感染症、multisystem inflammatory syndrome、結核、敗血症も鑑別診断に追加されます。殺虫剤、殺鼠剤への暴露による中毒はないかと踏み込まれます。更に本例は入院中に何と腎梗塞、肺血栓塞栓症、肝虚血疑いを合併して病状が進行します。ここに至っては鑑別診断に出血傾向を伴う血液疾患、Macrophage Activation Syndrome、Hemophago. Synd.、SLE、,Protein C,S Deficiency、FactorⅤLeiden、Still’s disease、Vasculitis、そしてAntiphospholipid Synd.(APS)も考えなければなりません。本例の家族歴に自己免疫疾患、母親の流産歴を踏まえて総合するとAPSが強く疑われ、Catastrophic APS(CAPS)が鑑別診断の筆頭となりました。

 大腸粘膜生検の病理組織所見では多発する血栓が認められ、lupus anticoaglantが陽性でした(ただし高CRP血症の時の擬陽性に注意必要)。Anticardyolipin抗体他のリン脂質抗体系は陰性でした。更に凝固因子に異常を認めず、proteinC,S, factorⅴLeidenに異常を認めませんでした。最終診断はCAPSとされました。

 CAPSの診断により本例はhigh dose methylprednisolone、immune globulin(IVIG) 、rituximab、eculizumabが投与されます。しかし肝障害は進行して肝不全(脳症)を合併、画像診断で門脈、上下腸間膜静脈、下大静脈、頭蓋内静脈洞に血栓症が明らかとなりました。

肝不全、門脈・腸間膜静脈血栓に対してTransjugular Intrahepatic Porto-systemic Shunt(TIPS)が施行されて血栓除去も成されます。出血を懸念されて未実施だったヘパリン投与も開始されました。

CAPSの合併はAPSの中でも小児に多く、更にはリウマチ疾患関連よりも原発性に多く認めると報告されています。CAPSにはtriggerとなる前病態があり、感染が最も多いといわれています。本例では当初の下痢症は動物暴露が原因だった可能性があります。(小児)CAPSの治療は一般にステロイド、抗凝固、そして血漿交換或はIVIGの3つからなりますが、死亡率は26%との報告があるようです。最近ではrituximabとeculizumabの使用が好成績を得ているようです。

  本例の病勢は一旦小康を得ますが、経過中に虚血から大腸穿孔をきたして大腸亜全摘術

が施行されてハルトマン手術が追加されます。大変な経過の後、本例は結局救命されました。Lupus anticoaglantは陰性化、画像診断で血栓は消失します。9週間の入院治療の後にリハビリテーション施設に転院となりました。5か月後のフォローアップで特記すべき異常なく、人工肛門は閉鎖予定です。

 大変な症例でした。腹痛、下痢、血便がIBD、cancer等で説明される単純な病態でないことは読んでゆくうちに想像可能です。第5病日に状態が急変して肺動脈血栓症、頭蓋内静脈洞血栓症を伴う全身の血栓症を合併して、門脈閉塞による肝不全(脳症)まで明らかになります。文字通り”catastrophic”な展開で、読んでいて手に汗握る緊張感、ちょっと疲れてしまうほどです。正に” This unusual presentation is so sever and dramatic that it is catastrophic. “です。対する臨床側の熱意と力にも敬服するばかりです。腸間膜静脈・門脈系の血栓をTIPSを介して除去するなんて私の知らない世界でした。いつもの事ながら感服、大変勉強になりました。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>