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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case42

2023.11.22

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 21.11.2023

Case 35-2023: A 38-Year-Old Woman with Waxing and Waning Pulmonary Nodules 21.11.2023

38歳の女性が呼吸困難、胸部違和感、画像診断で胸部結節影を主訴にMassachusetts General Hospital(M.G.H.)を受診しました。3年前に股関節痛、下背部痛で整形外科でステロイド注射されています。22か月前に下痢でかかりつけ医を受診して、その4か月後に血性下痢で再診しました。消化器内科医により大腸内視鏡検査がされて、直腸粘膜は顕著な発赤、肛門から10cm口側までは顆粒状粘膜で血管透見を消失していました。生検組織診ではdiffuse active chronic colitisの所見でした。mesalamine投与が開始されましたが症状の改善なく4か月後に中止されました。その後の数か月間に労作時に進行性の呼吸苦と倦怠感が出現しました。8か月前からは体・関節痛が出現して特に下背部と股関節に顕著で走ることが困難となりました。7か月前には右眼に発赤腫脹と掻痒が出現します。3か月前には血性下痢が再発して大腸内視鏡検査が再検されました。直腸の浮腫性、発赤した粘膜を認めて生検がされ、2個の径5mmポリープが切除されました。生検組織の病理組織所見ではポリープは管状腺腫と鋸歯状ポリープで、直腸粘膜はmoderate active chronic colitisの所見でした。mesalamine治療が再開されました。翌月、家事をしていると呼吸苦と両側(左側有意)の胸膜痛を自覚して家事を止めます。胸痛は数日間持続して呼吸苦が悪化して他院の救急外来を受診しました。診察すると呼吸音が減弱して心電図所見は正常でした。検査結果でNT-proBNP値、末梢血白血球数と分画は正常でした。血清troponinIは検出されず、D-dimer値が3150ng/ml(<500), COVID-19感染症検査は陰性でした。血培が提出されました。

 胸部単純写真では両側に局所、斑状の肺胞性陰影があり、胸部造影CT検査所見で肺塞栓症は否定さましたが両側肺に径18mmまでの多発結節、両側胸水を認めました、左腎結石と。doxycycline, azithromycin, prednisoneが5日間投与されました。13日後、今回来院の2か月前に、他院の救急外来に持続する労作時呼吸苦を訴えて受診しました。以前の血培は陰性、末梢血白血球数と分画は正常、血性procalcitoninは検出されませんでした。胸部単純写真ではconsolidationが尚みられて胸水が増量しています。Prednisoneの5日間投与とalbuterol吸入の頓用がされました。5週間後(今回の5週間前)に他院の呼吸器内科を受診しました。右側に胸膜性胸痛を訴えて症状と画像所見から多発局在する肺炎と肺炎関連胸水と診断されてprednisoneの3週間漸減投与がされます。Prednisone療法は完遂しましたが患者は努力呼吸と起坐呼吸と胸部不快感を訴えました。胸部CT検査が再検されてM.G.H.の呼吸器内科を紹介されました。CT保険では右側舌区と上葉ではいくつかの結節が消失していましたが全体では結節数が増加していました。CT検査の6日後(今回の6日前)、M.G.H.の呼吸器内科を受診します。本人曰くprednisoneにより胸痛は軽減しています。運動能は以前5mile走れたのに現在では呼吸苦で半mileも走れないと訴えますreview of systemとしては寝汗があり、一年間で15kgの体重減少、腹部にわずかな皮疹、この3週間続く右側眼瞼の腫大と視覚異常、Raynaud’s phenomenon、多発する関節のこわばりと疼痛、手指の腫脹と瓶を開けるといった可動制限があります。発熱、咳嗽、悪寒、咽頭症状、眼痛、視野異常、喘鳴、動悸、眩暈、吐気・嘔吐、排便・排尿異常、神経障害は認めませんでした。病人との接触はありません。既往歴としては甲状腺機能低下症、多発腎結石、うつがあります。使用薬はmesalamine, levothyroxine, escitalopram, lorazepam, inhaled albuterolです。日1箱の喫煙歴が5年間あり20年前から禁煙しています。大麻油を使用しますが他の薬物の使用歴はありません。教師でしたが病状で退職しました。NEW ENGLANDの郊外に配偶者と3人の子供と暮らしています。鳥、猫を飼ってます。猫に噛まれた経験があります。特記すべき渡航歴はありません。家族歴としてはceliac diseaseが母親に、肺癌が母方祖父(ヘビースモーカー)にあります。体温は36.5℃、脈拍132、血圧129/81、呼吸数16、SpO2 98%でした。身体所見では間欠的に浅呼吸があり、右肺にわずかなcrackleを聴取しました。右側眼瞼が発赤、腫脹しています。CK, aldolase, rheumatoid factorは正常。anti-Ro, anti-La, anti-Smith, anti-RNP, anti-Jo1, anti- Scl-70, anti-HIV1,2, ant- cyclic citrullinate peptide(CCP), anti- neutrophil cytoplasmic antibody(ANCA)は何れも陰性。cryptococcal antigen,  1,3-β-D-glucanは陰性。尿中blastomyces, coccidioides, histoplasmaの抗原絵検査は何れも陰性。結核菌に対するinterferon-γ release assayと過敏性肺臓炎パネルは陰性でした。患者はリウマチ科にも紹介されました。次の6日間、呼吸困難は悪化して手指、胸の全体的な疼痛は継続します。患者はM.G.H.の内科に入院となりました。体温は36.1℃、脈拍64、血圧141/85、呼吸数20、SpO2 99%でした。間欠的な浅呼吸を認めます、口腔咽頭に潰瘍なく異常ありません。胸部にわずかな発赤疹を認めます。関節には特記すべき異常を認めません。血液検査でtroponin T, NT-proBNP, angiotensin-converting enzyme(ACE), galactomannan antigen, C3,C4は何れも正常でした。尿中HCG、anti-double-strand DNA抗体は検出されませんでした。CT検査所見では両側胸部に相変わらず充実性結節が周辺のground glass opacityを伴い認められます。右側に少量の胸水を認め、胆石、腎結石を認めました。第2病日に眼科診がされて眼瞼炎を認めますがブドウ膜炎は認めませんでした。経口doxycyclineと洗顔点眼液が投与されました。経胸壁心エコー検査所見では卵円孔開存とわずかな右左シャントを認めました。抗梅毒抗体、lupus anticoagulant, anticardiolipin IgM, IgG, β2-glycoprotein 1 IgM, IgGは検出されませんでした。

 <DIFFERENTIAL DIAGNOSIS>  M.G.H.内科Jessica B. McCannon先生の解説です。本例は数年間にわたって多臓器関連症状を来します。即ち血性下痢、眼の炎症、仙腸骨炎に合致する下背部・股関節痛、指の炎症、呼吸困難、胸膜性胸痛、倦怠感のような全身症状です。画像診断では胸水と増悪・改善する肺結節です。肺結節を有し、呼吸困難を呈する症例は稀でありませんが、肺結節が呼吸困難の原因となることは稀です。結節が巨大となり、循環、換気に影響する場合は呼吸困難を来します。本例に見られた胸水は呼吸苦を来すには比較的少量と言えます。しかし、本例においてはわずかな胸水を有するような病態が呼吸困難の原因となっています。

  PULMONRY NODULES  多くの肺結節があり鑑別診断するうえで重要な事は特別な病像を有するかです。例えばfocalであるかdiffuseであるか、局在が末梢であるか肺中心部であるか、上葉有意、或いは下葉有意な局在かとかです。多発小結節については結節間の関連です、小葉中心であるか(細動脈、細気管支)、末梢構造に関連するか(肺静脈、リンパ管)により、centrilobular, perilymphatic, randomly distributedといった表現となります。サイズ、solid かsubsolidか、cavitationがあるか、石灰化は如何か、辺縁の様子はspiculated, smooth, haloなど。本例の結節はlarge, randomly distributed と表現可能で、通常は悪性腫瘍(原発性、転移性、両者)か感染症に合致する所見です。halo signは病歴的にinvasive aspergillosisを惹起しますが、非特異的であり、悪性腫瘍、感染症(特に敗血症性塞栓症、真菌感染症)、血管炎、サルコイドーシス、inflammatory bowel disease(IBD)にも見られる所見です。本例においては肺病変以外に全身に多発する肺外病変を考慮すると全身性疾患が肺病変を伴っている可能性が考えられます。広範なリストから考察する必要があります、即ち悪性腫瘍、感染症、血管炎、膠原病、サルコイドーシス、アミロイドーシス、IgG4関連疾患、IBD、治療関連の中毒性肺疾患などです。

  CANCER 本例ではサイズ、数共に胸水と同様に増悪、改善を認めており(ステロイド治療の影響?)悪性腫瘍らしくありません。

  INFECTION 比較的大きな結節が増悪、改善を認める点からは真菌感染、抗酸菌感染がより強く疑われます。敗血症性塞栓も局在、分布からは考えられますが、本例には発熱、悪寒、咳嗽、喀痰もみられません。白血球増多、procalcitonin高値、血培、真菌マーカーは何れも陰性です。本例は猫咬症、鳥の暴露があり、bartonellosis, psittacosis, cryptococcosis,histoplasmosisなどが考えられますが、臨床像が合致しません。

  VASCULITIS 小血管の血管炎、即ちANCA関連血管炎(granulomatosis with polyangiitis : GPA, eosinophilic GPA: EGPA, microscopic polyangiitis)、immune complex-mediated vasculitis(Goodpasture’s disease)などが気道病変、肺結節(多くはcavity+)、肺胞出血、胸水を合併する可能性があります。消化管病変を合併する可能性もありますがGPAやmicroscopic polyangiitisでは稀で、時に合併するEGPAにおいても典型的には好酸球増加症や血管炎活動期に認められます。EGPAとは他の臨床像が異なります。)

  CONNECTIVE-TISSUE DISORDERS RA, Shogren’s syndrome, SLE, polymyositis, dermatomyositis, MCTDといった膠原病は多臓器を侵します。肺病変は一般的に間質性肺炎の像です。RAとSLEが漿膜炎を合併します。通常皮下結節として合併するリウマチ結節は肺結節として認められることもあります(cavity有する例も)。しかし消化管病変の合併は稀です。本例では抗核抗体陽性、Raynaud’s phenomenon陽性ですが、これらはIBDを含む多くの疾患で陽性となります。

  OTHER SYSTEMIC DISORSERS サルコイドーシスとしては、本例にはリンパ節腫大がなく、ACE値も正常でした。IBD, アミロイドーシス、IgG4関連疾患も気道病変、肺病変、胸膜炎を含む全身疾患を来しますが、アミロイドーシス、IgG4関連疾患は臨床像が異なります。

  INFLAMMATORY BOWEL DISEASE IBDは肺病変を合併する病態で、咳嗽、喀痰、気管支炎、気管支拡張症などが報告されていますが、necrobiotic類壊死性結節の合併もみられます。本例にみられた多臓器病変の増悪、改善はステロイド治療の影響が考慮されます。

本例の臨床像はIBDに合併する多臓器病変が最も疑わしく、肺結節の生検が勧められます。

  <DIAGNOSTIC TESTING> CTガイド下に右上葉の結節から生検がされました。22ゲージ針で吸引検体が22ゲージ針でcore-biopsy検体が得られました。

  <PATHOLOGICAL DISCUSSION> 生検検体の病理組織所見では肺胞内にフィブリン滲出を認めるacute lung injuryとリンパ組織球浸潤と肉芽腫性炎症を認め、境界明瞭な肉芽腫形成(中心には点状の壊死)が顕著でした。血管炎の所見を認めませんでした。EB-RNAは認めずflow cytometryではリンパ増殖性疾患は明らかでありませんでした。真菌、抗酸菌を認めませんでした。サルコイドーシスについてはacute lung injury、肉芽腫中心のpin point necrosisの合併が合致しません。原因としてはcollagen vascular disease, IBD,薬剤副反応が考えられました。臨床像と併せてIBDに合併した肺病変と考えられました。

  <DISCUSSION OF MANAGEMENT> 確定診断がされた後にステロイド治療が実施されました。IBDに合併した肺病変の治療には報告が限られています。追加療法としてtumor-necrosis factorα(TNFα)標的療法もIBDに対する治療にも併せて考慮されます。

本例にみられた涙腺炎はステロイドでコントロールされていたので、肺肉芽腫性病変への効果を期待してinfliximab投与開始をお勧めしました。IBDへのazathioprineを加えたdual therapyは勧めませんでした、既に本例は涙腺炎に対して高用量ステロイドが使用されており、免疫抑制状態にあったからです。

  <FOLLOW-UP> infliximabの静脈内投与については副反応が顕著であったために、結局adalimumab, azathioprine療法に変更されました。画像的に肺病変は左側で完全緩解し、右側では縮小した結節が1つだけ残存しました。胸水は消失しています。末梢肺野にわずかですが非特異的ground-glass opacitiesが出現しました。骨格超音波検査で腕に腱鞘炎・腱付着部炎に一致する変化を認めました。レントゲン所見では仙腸骨炎を認めました。

結局治療はustekinumab療法(一時的にmethotrexate併用)に変更されました。関節症状も消化管症状も改善しており、画像診断的に肺病変は正常化しています。

 本例は3年前に背部痛、股関節で発症し、更に血性下痢、他の全身症状と呼吸苦・胸痛を訴えて、両側肺に多結節を合併したとする経過を有する症例でした。CTガイド下・経皮肺生検の病理組織所見と併せて、IBD/ 潰瘍性大腸炎関連の肺病変と診断されて治療を受けます。“肺の結節性病変”というcommonな病像ですが、こうやって鑑別診断を系統的に整理されて解説されると、つくづく臨床は奥深いと感心しますし、益々興味深いものになります。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>