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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case45

2023.12.27

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 26.12.2023

Case 38-2023: A 68-Year-Old Woman with Abnormal Movements and Confusion 26.12.2023

 68歳女性が悪化する混迷、腕・足・顔面の異常運動のためにMassachusetts General Hospital(M.G.H.)に入院しました。9か月前までは特記すべきことなく、間歇的な発語異常、眩暈が1日続くと他院を受診しました。the National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)でみると1点でtissue plasminogen activator(TPA)治療の適応ではありませんでした。頭部MRI検査所見では深部白質にpunctate focusとして急性期脳梗塞に合致する異常信号を認めました。 頭部・頚部MR angiographyでみると動脈閉塞・狭窄、動脈瘤は明らかでありませんでした。患者は入院となりました。既往歴に2度の深部静脈血栓症があり、apixabanを内服しており、継続されました。更に高脂血症に対してatorvastatinを内服中で今回増量されました。TTE(Transthoracic Echocardiography) 所見では左室収縮能は正常、卵円孔開存を認めませんでした。ECGモニターに心房細動を認めませんでした。退院後30日間のmobile cardiac telemetryが予定されました。第2病日に頻回の右下肢・不随意運動が出現して持続時間は数秒、nonrhythmic patternでした。翌日には同様異常運動が右上肢にも出現します。単純頭部CT所見で異常はありませんでした。EEG(Electroencephalography)でも覚醒時、傾眠、睡眠時に異常を認めませんでした。発語障害は消失しましたが不随意運動は継続します。第7病日に患者は自宅へ退院となりました。続く6週間、上下肢、舌の不随意運動が頻度を増して出現します。歩行器を使用するようになり、今回の入院9日前になると家で何度も手足の異常運動による転倒により他院に入院となりました。診察すると常時“もがくような”nonrhythmic, dancelike movement”が上下肢、体幹に認められ、舌にはうねるような動きを認めます。椅子からは補助具を用いて立ち上がれます。下肢には点在するあざを認めます。頭部単純CT所見では脳実質に点在する軽度低吸収域を認めて、出血や急性期の梗塞は明らかでありません。vascular choreaの暫定的診断でlevetiracetamが経口投与されました。第3病日に頭部MRIが撮影されましがたが、不随意運動によるartifactが顕著でした。右前頭葉、頭頂葉の傍脳室白質域、放線冠、半卵円中心に急性期・亜急性期梗塞巣に合致する小さな異常信号が点在していました。出血、腫瘤の合併はありませんでした。第4病日にlevetiracetamが増量されました。EEGでは局在の無い、非片側性、或いは非てんかん性slow-waveの増加を認めました。体幹、頭部の異常運動との関連性はありません。少量のclonazepamが睡眠効果も期待して眠前投与されました。第6病日にリハビリ施設に転院となりました。退院後3日目に家族が混迷状態、会話困難にある患者を見つけてM.G.H.の救急外来を受診しました。ERで患者は情報を充分には伝えられず、家族からの聴取では既往歴に甲状腺機能低下症、高血圧、糖尿病、高脂血症、肺高血圧、白斑症があります。内服薬としてはambrisentan, apixaban, atorvastatin, cholecalciferole, glipizide, levothyroxine, metformin, omeprazole, sitagliptinです。リハビリ施設でclonazepamは中止されました。

 患者は2回の深部静脈血栓症のためにwarfarinを何年も服用していましたが10か月前にapixabanに変更されました。acetylsalicylic acidによる蕁麻疹歴があります。他にアレルギー歴は明らかでありません。患者は郊外に独りで暮らし、学校で就業しています。喫煙歴なく、飲酒機会も稀です。父親と兄弟が糖尿病です。不随意運動、脳卒中の家族歴はありません。体温36.6℃、血圧125/60、心拍79、呼吸数20、SpO2 94%、BMIは23.6でした。

 患者は傾眠傾向でしたが声掛けで覚醒します。自分の名前は言えますが、場所、時間については言えません。一つの指示には繰り返せば従えますが、複雑な指示には応えられません。不随意運動が顔面、口、舌にあり、自発的悶えるような動きが上下肢に認められ、一部は抑制可能でした。バレー徴候が右で陽性です。右上肢の筋力は何れの部においても4/5でした。血液検査で電解質、肝機能、腎機能は正常でした。尿検査ではケトンがわずかに陽性、1+leukocyte esterase(negative), 尿沈渣は正常でした。血沈は1時間値44(<40)でした。末梢血白血球数3950(1800-7700), リンパ球840(1000-4800), Hb7.9, Ht26.0, Plt225000、INR1.4,  APTT40.6(22.0-36.0), TSH5.24(0.40-5.00)でした。頭部造影CT、頭部・頚部CT angiographyでは急性期脳梗塞像はなく、これまでと著変ありません(以前に認められた脳軟化巣と傍脳室白質領域の低吸収域)。単純・造影MRI検査所見では急性・亜急性梗塞に相当する多発異常信号を認めました。梗塞巣は両側大脳半球の皮質、皮質下白質に点在しています。最も目立つ梗塞巣は左側頭葉から頭頂葉に沿った部に認められます。無数の梗塞巣が前頭葉・頭頂葉の中脳回前後の皮質に認められます。右・上小脳半球にも小梗塞巣に合致する多発異常信号を認めました。出血、腫瘤性変化は明らかでありません。MR angiographyでも血管の閉塞、高度狭窄、動脈瘤を認めませんでした。

 <DIFFERENTIAL DIAGNOSIS > M.G.H.神経内科のDr. Bart K. Chwarlisz先生の解説です。鑑別診断を進めるうえで現症と神経学的局在についての考察から始めたいと思います。本例には広く分布する異常運動を有します。他の神経所見としては構音障害、混迷、覚醒障害、そして脱力です。異常運動はchoreaに合致します。choreaは通常錐体外路・基底核ネットワークに原因が局在します。基底核疾患にはびまん性と分離した局在が考えられます。

 VASCULAR LESIONS 比較的大きな片側antero-ventral caudate, striatum, thalamusの病変が対側にchorea , athetosisを来します。本例のMRI所見では病巣が小さく、基底核周囲には認められません。稀ではありますが視床下体核に局在する小病変で対側hemiballismusを来すことが報告されています。

  GENETIC DISORDERS 本例は70歳台で亜急性に始まり、数か月の経過で発症しているので遺伝性疾患はそれらしくありません。多くは幼少期に発症してautosomal recessive或いはX-linkedな遺伝様式です。Huntington’s diseaseとは臨床像が異なります。mitochondrial diseaseでは難聴と短躯が特徴的です。急性間欠性ポルフィリア、肝性ポルフィリアは末梢神経障害を伴い、腹痛を有することが特徴です。

  TOXIC AND METABOLIC DISORDERS 薬剤起因性choreaの原因薬は神経精神薬、抗痙攣薬、amphetamine、抗パーキンソン薬などです。低酸素の影響、一酸化炭素中毒、重金属暴露の既往はありません。高血糖、高・低Na血症がchoreaを来すことがありますが、本例には当てはまりません。甲状腺機能亢進症でchoreaは稀で、通常はtremorが出現します。肝性脳症がmyoclonus, dystonia, choreaを起こす可能性があります。MRIで基底核にマンガン沈着を認める例があります。本例とは臨床像が合致しません。

  INFECTIONS 感染症ではĀ群溶連菌によるリウマチ熱にみられるSydenham choreaが有名です。HIV脳症、結核感染がchoreaを合併したとの報告があります。Creutzfeldt-Jakob病もchoreaを合併しますが、上記何れも臨床像が本例とは異なります。

  INFLAMMATORY DISORDERS 多発性硬化症、神経サルコイドーシス、神経ベーチェットもchoreaを合併しる可能性がありますが画像所見も異なります。

  PARANEOPLASTIC DISORDERS paraneoplastic choreaが高齢男性に末梢神経障害を伴い発症することがあり、最も高頻度な疾患は肺小細胞癌によります。神経抗体が証明されますが、autoimmune choreaにもこれら抗体が認められる例があります。

  AUTOIMMUNE DISORDERS 成人にみられるchoreaの原因では最多はlevodopa induced choreaで次にはHuntington’s choreaとautoimmune choreaです。全身性の自己免疫疾患ではsystemic lupus erythematosus(SLE)とantiphospholipid syndrome(APS)の可能性があります。SLE症例に最もよく見られる不随意運動はchoreaで、頻度は2%とされます。55%の例で両側に発症して、66%の例で一回きりの発症とされます。他の神経・精神症状としてはseizure, delirium, 脳虚血、精神症状などです。本例には貧血と白血球減少症はありますが、他の全身症状がSLEと異なります。APSは原発性、SLEを含む他疾患に続発性として発症します。血栓症、妊娠中の異常を合併します。虚血性脳卒中、片頭痛、脊髄症、てんかん、認知症などの多彩な神経症状を合併します。choreaはAPSにおいて最もよくみられる不随意運動で1.3%の頻度とされます。病因は虚血以外にも考察されており、ネズミにおいては抗体が神経組織に結合して行動変化をきたしたとの報告があります。

  MUTIFOCAL STROKES 本例において抗血栓薬apixabanが投与されていたにも関わらず多発する小さな脳梗塞が発症した原因は如何でしょうか。個人差による抗血栓療法の反応低下や、アドヒアランス低下、そして抗血栓薬が効きにくい病態の合併、即ち高血圧性・糖尿病性微小血管閉塞、血管炎、感染性心内膜炎などです。本例は10か月前にwarfarinからapixabanに投薬が変更されており、apixabanはAPSに対して比較的効果が薄れる可能性があります。DVTの既往があり、抗血栓療法にも関わらず動脈閉塞を来した経過からはSLEを背景にしたAPSの存在が疑われます。診断のためにlupus anticoagulant, anticardiolipin, anti-β2-glycoproteinⅠ抗体の測定、更にantinuclear antibodyの測定が必要と考えます。

  <DIAGNOSTIC TESTING> 本例ではAPTT,  INRの延長を認め、それはapixabanの影響が考慮されますが、凝固因子欠損やlupus anticoagulantの存在は否定できません。plasma mixing testでは凝固因子欠損は明らかとなりませんでした。lupus anticoagulant-sensitive APTT testは陽性でした。hexagonal phase phospholipid neutlization testが陽性でlupus anticoagulantの存在が明らかとなりました。anticardiolipin IgG, IgMは何れも強陽性:114.7U, 26.0U(<15.0)でした。anti-β2-glycoproteinⅠ抗体は陰性でした。診断基準からもAPSの確定診断が可能です。antinuclear antibodyは1:160で陽性dual pattern(homogeneous and speckled pattern)、anti-double-stranded DNA antibodyは1:360で陽性、血性学的にSLEと診断可能でした。C3 56mg/dl(81-157), C4 6mg/dl(12-39)でした。tissue immune complexによる多臓器における炎症、組織障害が 示唆され、血小板、血管内皮、coagulation cascadeを活性化していると考えられました。

 <DISCUSSION OF MANAGEMENT> 本例の病歴で重要な点の一つは高度のchoreaが2か月の長期にわたり無治療であったことです。患者は就業不能となり、自立して生活できず、補助具なしで歩行できず、危険な転倒を繰り返しました。7人の神経内科医が関与していたにもかかわらず、choreaの治療は受けていませんでした。よくある理由としては、一つは神経内科医が原因を明らかになるまで治療を開始しない傾向があることです。二つ目にはFDAでHuntington’s choreaとtardive dyskinesia(drug induced movement disorder)に認可されているvesicular monoamine transporter 2(VMAT2) inhibitorの使用を、その副作用(parkinsonism, depression )故に使用するハードルが高くなっていることだと思われます。従来のfirst-generation dopamine D2 receptor antagonistであるhaloperidolの使用が、保険会社の書類審査の煩わしさ?で使用しにくいところもあるかもしれません。多くの医者がfirst-generation dopamine D2 receptor antagonist投与を躊躇して何も投薬しないか、tardive dyskinesiaを懸念してsecond-generation dopamine D2 receptor antagonistであるquetiapineを投与する傾向があります。しかしながらchorea治療にはdopamine D2 receptor antagonistが必要であり、既にchorea合併例に対してtardive dyskinesiaを発症したとの報告はみられません。本例には検査結果が明らかになる前にhaloperidolが投与されて一日のうちにchoreaは劇的に減弱しました。APSによるchorea、SLEによる精神神経症状の病因を考慮して抗血栓療法と免疫抑制療法が追加考慮されました。APS症例におけるchoreaの予想される病因としては血栓による基底核領域への循環障害ですが、複数の集計報告によると多くの症例で、MRI所見で合致するような脳虚血所見を認めません。本例においても同様です。本例ではAPSの診断がされ、既往歴に2度のDVTがあることより、choreaと亜急性脳梗塞も併せて、生涯にわたるwarfarinの内服が必要と思われます。報告数に限界があり、APS,  SLEのchoreaに対する免疫抑制療法の効果は明らかでありません。本例ではhaloperidolが著効したこともあり、免疫抑制療法は保留されました。SLE治療はhydroxychloroquineが開始されてリウマチ科専門医にフォローアップされています。haloperidol投与は就寝時のrestless leg symptomsを合併しますが、gabapentinで対応が可能です。本例ではhaloperidolと gabapentinが漸減・中止されて独力生活可能です。

<FINAL DIAGNOSIS> Chorea due to antiphospholipid syndrome and underling systemic lupus erythematosus

  本例は不随運動choreaを合併した抗リン脂質抗体症候群症例でした。choreaの原因が抗リン脂質抗体症候群に合併した脳梗塞と断定することはできないという解説です。choreaといえば、Case 31-2023で右頸動脈狭窄により左側にchoreaを合併した79歳男性例の報告がされ、limb-shaking TIAという診断名/病態を知って感心したばかりでした。毎回大変勉強させられます。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>