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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case47

2024.1.16

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 16.01.2024

Case 40-2023: A 70-Year-Old Woman with Cough and Shortness of Breath 16.01.2024

 進行したhuman immunodeficiency virus(HIV)感染症を有する70歳女性が咳嗽、息切れ、衰弱を主訴にclinic in Kwazulu-Natal, South Africaに来院されました。15年前に体重減少、倦怠感を主訴に発症してHIV感染症の診断を初めて受けました。当時CD4+細胞数は29(332-1642)、antiretroviral therapy(ART)がstavudine, lamivudine, efavirenzのレジメンで開始されました。一年間は症状改善してHIV RNA値も検出できない範囲でした。内服レジメンは守られていました。10年前にSouth Africaで使用可能となったtenofovir, disoproxil, disoproxil fumarate, emtricitabine, efavirenzの組み合わせレジメンに変更されました。5年前に下痢、全身の筋肉痛を主訴に地方の病院に入院、virologic failureの診断となり、ARTレジメンがzidovudine, lamivudine, lopinavir-ritonavirの組み合わせに変更されました。次の4年間に服薬は正しくされました。HIV RNA値は68-594000copies/ml(reference/undetectable)でした。12か月前、患者さんは息切れ、咳、食思不振、体重減少を訴えます。続く4週間にわたって症状は頻度も程度も悪化しました。息切れにより歩行困難となり受診します。体温は36.8、血圧104/64、心拍87、BMIは16.9でした。身体所見では具合が悪そうにみえますが、返答に問題ありません。肺聴診は咳で限られましたが、両肺にdiffuse crackleを聴取します。鼻咽頭ぬぐい液のSARS-COV-2核酸検査は陽性でした。喀痰の顕微鏡検査では抗酸菌陽性で、核酸検査と培養でMycobacterium tuberculosisが確認されました。自宅に隔離されてrifampin, isoniazid, pyrazinamide, ethambutol投与が開始されました。 次の6か月、抗結核療法が継続されて息切れ、咳の症状は改善傾向にありましたが残存しています。食思不振は改善されましたが体重減少は8kg。今回の4か月前には新たに頭痛と口腔潰瘍が出現してクリニックを受診しました。喀痰の結核検査は全て陰性です。HIV RNAは151000copies/ml、外来でのフォローアップが予定されました。今回の12日前に再診してARTのレジメンが、tenofovir, disoproxil   fumarate, lamivudine, dolutegravirに変更されました。症状は継続して、息切れ、乾性咳嗽、口唇潰瘍があります。review of systemとしては倦怠感、脱力が12か月のうちに認められます。更に発熱、寝汗、胸痛、口唇潰瘍、嚥下痛を認めます。一方、味覚障害、嗅覚障害、視野異常、腹痛、吐気・嘔吐、下痢、皮疹、関節痛を認めません。胸部単純写真は撮られていません。Covid-19ワクチン接種はしていません。tenofovir, disoproxil fumarate,lamivudine, dolutegravirを内服してacetaminophenを筋肉痛に頓用しています。薬剤アレルギーは明らかでありません。喫煙歴なく、飲酒歴、違法薬使用歴ありません。伝統治療を受けていません。娘さんとSouth Africaの田舎に暮らしています。地域を裸足で移動して牛、山羊、鶏、犬に接しています。飲料水は生の井戸水です。診察すると意識清明、見たところ具合悪そうでcachecticです。血圧97/71、心拍91、呼吸数20、BMIは13.7でした。粘膜は乾燥して舌に口腔カンジダを認め、頬粘膜には浅い潰瘍形成があります。胸部聴診所見では両肺にdiffuse crackleを聴取します(右下肺に顕著です)。血液検査で肝機能は正常で抹消血Hb7.6, Plt104000, WBC1960, CD4+ Cell 6(332-1642), HIV RNA793(0-20)でした。

 <DIFFERENTIAL DIAGNOSIS> M.G.H.内科のRajesh T. Gandhi先生の解説です。鑑別診断を考えるうえで、まず最近関わりのあった感染症や免疫抑制状態といった患者背景を確認したいと思います。それから当初あった呼吸器系訴えについて可能性のある原因を明らかにしたいと思います。最後に最終的な本例の病像、口腔潰瘍や頭痛を含む、を説明する鑑別診断を絞り込みたいと思います。

 DEFINIG THE FEATURES OF THE PATIENT’S UNDERLYING CONDITION 本例はHIV感染症の診断を受けた当初既にCD4+ countが29cells/mlと低値にありました。このような診断の遅れが患者の日和見感染や悪性腫瘍合併のリスクとなります。進行HIV感染症に加えて本例には最近のSARS-COV-2感染歴があります。HIV感染者では特にCD4+count低値、HIV RNA高値の場合にSARS-COV-2感染の予後が悪化すると報告されています。本例の高度免疫不全状態は持続SARS-COV-2感染症や真菌感染症合併のリスクが増加します。更に本例は肺結核感染の既往があり、SARS-COV-2感染症の予後悪化、真菌感染合併による肺障害の可能性が懸念されます。

  IDENTIFING POTENTIAL CAUSES OF THE PATIENT’S INITIAL RESPIRATORY SYMTOMS  進行したHIV感染症を合併する本例においては当初みられた呼吸器症状の原因には感染症と悪性腫瘍、心不全といった非感染症が考慮されるべきです。             

 Cancer 悪性腫瘍としては非ホジキンリンパ腫やhuman herpes8-associated cancerではKaposi’s sarcomaが考慮されますが臨床像が異なります。

  HIV cardiomyopathy 進行HIV感染症では拡張性心筋症の合併を来しますが口腔潰瘍や頭痛合併の臨床像が異なります。

  Bacterial Pneumonia Streptococcus pneumoniae, Haemophilus influenzae, Staphylococcus aureus, Pseudomonas aeruginosa, Mycoplasma pneumoniae, Chlamydia pneumoniaeといった細菌感染症が考えられます。更に本例は家畜への暴露歴があり、馬ではrhodococcus species、鳥ではC. psittaci、山羊・羊ではCoxiella burnettiなどの感染が懸念されますが肝障害をと伴わないことから否定的です。Legionella, Nocardiaといった細菌感染症も考えらえますが、これらは本例に比してより急性な経過を来します。        

  Mycobacterial Pneumonia 結核感染症は考慮が必要ですが、本例では4か月前に確認された喀痰検査が陰性でした。M. avium complexについては進行HIV感染者では肺病変というよりも播種性病変を来します。

  Fungal Pneumonia  Pneumocystis jirovecii肺炎は本例の口腔潰瘍、頭痛を説明しません。南アフリカでの進行HIV感染症では Emergomyces africanus, cryptococcus, aspergillus, blastomyces, histoplasmaなどが考慮されます。cryptococcusについては抗原検査が陰性でした。

  Parasitic Pneumonia  toxoplasma, strongyloides, cryptosporidium, microsporidium等が考慮されますが口腔潰瘍、頭痛は臨床像として合致しません。

  Viral Pneumonia  influenza, respiratory syncytial virus, parainfluenza viruses, human metapneumovirus, cytomegalovirus, SARS-COV-2が可能性として考えられます。

  REFINING THE DIFFERENTIAL DIAGNOSIS 当初の呼吸器症状に加えて。本例には嚥下痛と口唇潰瘍の合併を認めています。進行HIV感染症におけるこれら臨床像を考慮するに、考えられる鑑別診断は感染症としてaspergillus, histoplasma, candida, cytomegalovirus,  herpes simplex virus, SARS-COV-2感染症などでしょうか。本例で後期に発症した頭痛については脳膿瘍、細菌性・真菌性副鼻腔炎、髄膜炎などが考慮されます。細菌感染症は本例の長引く経過からは否定的で、aspergillosis等の真菌感染症が進行HIV感染症例に副鼻腔炎や脳病変を合併したとの報告があります。最後に、これら症状が効果の認められたART療法の後に出現したことを考えると、immune reconstitution syndrome(IRIS)の合併も考慮する必要があります。複数の日和見感染、悪性腫瘍の合併がARTの後に発症する可能性があります。IRISがacquired immunodeficiency syndrome(AIDS)とcovid-19感染症に併発したとする報告もあります。

  PUTTING IT ALL TOGETHER  本例にみられた当初の呼吸器症状と後期に発症した嚥下痛、口唇潰瘍、頭痛を如何に説明可能でしょうか。私は本例が進行HIV感染症にあることを考慮すると持続性SARS-COV-2感染症の可能性を懸念しています。進行性HIV感染症例における持続性SARS-COV-2感染症例では体内でのSARS-COV-2ウィルス変異の可能性が考えられます。高度免疫不全状態にある女性HIV感染症例にいてSARS-COV-2 RNAが210日間以上持続して検出されたとする報告もあります。その間にウィルスのスパイク遺伝子に複数の変異が確認されています。その症例では結局ART療法によりHIV RNAが抑制された後にSARS-COV-2 RNAは排除されました。加えて持続性SARS-COV-2感染症例ではaspergillosis, mucormycosisなど真菌類の重複感染のリスクもあることを考慮せねばなりません。Covid-19と真菌重複感染の病因については明らかになっていませんが、SARS-COV-2の内皮障害やリンパ球減少による抗真菌免疫の低下が関与する可能性があります。本例はaspergillosisについては進行HIV感染症、白血球減少症に加えて最近の肺結核感染もリスクになっていると思われます。深刻な免疫不全を考慮すると本例には持続性SARS-COV-2感染が予想されて、臨床像の説明が可能です。更にCOVID-19感染に加えてCD4細胞数減により、最近の新たな症状については肺・中枢神経のaspergillosis合併感染が懸念されます。SARS-COV-2についての検査と追加画像診断が必要です。

  <DIAGNOSTIC TESTING> 本例に今回もreverse-transcriptase polymerase-chain-reaction(PCR) testが鼻咽頭ぬぐい液で検査されて陽性でした。PCR検査は今回と3か月前、11か月前の3回で陽性、その間に陰性となった記録はありません。11か月前の検体は残がなく、3か月前と今回の検体についてSARS-COV-2の全ゲノム検査が実施されました。複数の部分変異を認めましたが同一のウィルスであることが確認可能で、持続感染であることが示唆されました。

 <DISCUSSION OF MNAGEMENT> 持続性SARS-COV-2感染症例の治療についてのガイドラインはありません。症例報告として抗ウィルス薬、モノクローナル抗体、回復期血漿等の使用が(多くは組み合わせられて)報告されていますが、効果については不明です。免疫不全を来す、背景にある疾患の治療が本質的であることは明らかです。HIV感染については限られた報告数ではありますが、ARTが効果を認めた後にSARS-COV-2感染も排除されています。本例においてもtenofovir, disoproxil fumarate, lamivudine, dolutegravirのレジメンに変更されております。

 <FOLLOW-UP> 本例受診時に南アフリカでは有効な抗SARS-COV-2薬は使用できませんでした。治療のゴールはHIV RNAの抑制となり、レジメンは変更されています。レジメン変更後5週目に本例は右側の高度頭痛と右側の眼瞼下垂・眼球運動障害を訴えました。IRISを考慮されて転送されました。造影CT所見では海綿静脈洞の腫瘤と右内頚動脈の閉塞を認めました。Aspergillus fumigatusが喀痰から同定されました。再検頭部CT検査所見より頭部aspergillosisの診断となりamphotericin Bの経静脈投与が開始されました。SARS-COV-2についての鼻咽頭ぬぐい液RT-PCR再検査は陽性でしたが3週間のうちに感染は回復しています。その時点でのHIV-RNAは118copiesと抑制されてCD4細胞数も改善していました。頭蓋内病変の生検が予定されている中で本例は突然死して、剖検は得られませんでした。

 2023年のcase records最終報告は南アフリカからで、免疫不全例(HIV感染症)に合併した持続性SARS-COV-2感染症でした。これで2023年のCASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALは40症例となり終了です。2023年は全ての報告を和文に全訳してみようと、大そうな思い付きで始めたこの報告もやっと一区切りです。2024年のcase recordsも既に4例を抄読しました。もう全訳するのは止めにしようと思いますが、形を変えて皆さんに報告してゆきます。よろしくお願いします。 

<伊東ベテランズ 川合から報告です>