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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case13

2023.4.18

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 Case 11-2023

 A 67-Year-Old Man with Mantle-Cell Lymphoma and Hypoxemia 18.04.2023

 67歳の男性がM.G.H.に低酸素血症を主訴に入院となりました。6年前にmelenaと貧血で検査を受けました。EGDで十二指腸に潰瘍性病変を認めて生検でadenocarcinoma、CT所見と併せて膵癌の浸潤による病変と診断されてneoadjuvant chemoradiotherapyの後に膵頭十二指腸切除術を受けました。術後に肺血栓塞栓症を合併しています。6か月毎のサーベイランス胸腹部CTを5年間受けて来ましたが、6か月前にCTでS状結腸の腫瘍を指摘されて内視鏡検査、生検結果と併せてMantle-Cell Lymphoma と診断されています。5か月前には超音波検査で右下肢の深部静脈血栓症が確認されてapixaban投与が開始されました。9週間前にrituximab, dexamethasone, high-dose cytarabine, cisplatin(R-DHAP)療法の1回目が実施されました。acyclovirとS-T合剤が感染予防に併用されました。皮疹が生じたためにpneumocystis jirovecii pneumonia予防にはS-T合剤の替わりにatovaquoneが投与されました。6週前には2回目のR-DHAP療法が実施されて2日後に下血出現、貧血も合併して輸血がされ、omeprazoleが追加投与されました。高価を理由にatovaquoneがdapsoneに変更されました。3週前にR-DHAPの3回目が施行されて、超音波検査で下肢静脈血栓は消失してapixabanは中止されました。入院当日、患者は4回目R-DHAP療法前の診察で、持続する労作時の呼吸困難を訴えましたが咳、発熱、悪寒、胸痛、起坐呼吸はありませんでした。既往歴は他に高血圧、遺伝性球状血球症と脾摘歴があります。常用薬はacyclovir, dapsone, lisinopril, omeprazoleです。S-T合剤に対して皮疹歴あり、飲酒は稀、喫煙は20年前に止めてます。離婚して一人でボストン郊外に暮らしています、弁護士です。家族歴としては母親が乳癌で亡くなっています。身体所見では体温36.6℃、血圧134/82、脈拍90、呼吸数22、SpO2 92%(安静時、室内気)、88~92%(歩行時、室内気)、93%(安静時、酸素6L鼻カニュラ)。BMI25.4、呼吸音正、頚静脈怒張なし、下肢に浮腫なし。

一般検査所見:末梢血Hb7.9, WBC21560, Plt596000, MCV107.7(-100.0),LDH382(-210)でした。胸部造影CT所見では右上葉、両側下葉の肺動脈末梢に陰影欠損・血栓塞栓あり、肺動脈主幹は左右分岐部で径26mmでした。わずかですが肺野に”tree-in-bud”、”ground glass”陰影がありました。ヘパリンの静脈内投与が開始されて入院となりました。第2病日、SpO2 91%(安静時、酸素5L鼻カニュラ)です。

M.G.H.内科のSchmidt先生の解説です。鑑別診断するにあたって低酸素血症の病態生理を考えてみます。即ち5つのメカニズムを考察しました。

REVIEW MECHANISM OF HYPOXEMIA

  1. Low Ambient Atmosphenic Pressure
  2. Hypoventilation
  3. Loss of Diffusion Capacity
  4. Ventilation-Perfusion Mismatch
  5. Shunting

 これらの中でA-a gradientが正常なのは1)と2)です。更に酸素投与でSpO2が上がらないのは5)だけです。病態生理5つの中ではShuntingが残された診断として浮かびます、という訳でREVIEW OF CHEST IMAGINGを考慮するのですが、やはりShuntingは明らかとなりません。本例について再考するとき、pulse-oxymetryでみるSpO2値にも盲点があることを考慮する必要があります。則ち皮膚の色、或いは異常ヘモグロビンの存在です。

 本例が服用しているdapsoneは後天性メトヘモグロビン血症/METHEMOGLOBINEMIAの最も頻度の多い原因として知られています。pulse-oxymetryではmethemoglobinは赤色光(660nm)から赤外光(940nm)域に”減衰係数“を有しており?、85%酸素化hemoglobinと同等値になるのだそうです。即ち、methemoglobinが全hemoglobinの30%に近づくとSpO2は投与される酸素量に関わらず85%に近づくことになるそうで、このプロセスは生理学的シャントに類似した結果となります。co-oxymetryによる動脈血ガス分析はmethemoglobinの存在に影響されず、またmethemoglobin量を測定可能です。本例のSpO2結果からはmethemoglobinの占める量は30%未満だろうと推察されます。本例には化学療法による、或いはdapsoneによる溶血性貧血(抹消血MCV高値、血清LDH高値もある)による貧血があり、methemoglobinの占める割合は8%もあれば呼吸困難を生じても不思議でないでしょう。更に本例は小さくとも肺動脈血栓症を合併していることが、訴え・呼吸困難に影響している可能性も考慮されます。本例ではdiagnostic testとしてco-oxymetryによるmethemoglobin量が測定されて全hemoglobin量の9.7%(0-1.5)でした。methemoglobinはFe2+が酸化されたFe3+を含有しており、結果として酸素親和性が低下、さらに酸素遊離曲線が左側偏移して組織での酸素放出が低下することにより低酸素化をきたします。体内ではhemoglobinは酸化ストレスの中にありmethemoglobin化する傾向にありますが、酵素cytochrome b5 reductaseにより脱酸化されています。この酵素欠損が先天性に起こりhemoglobin M diseaseが発症します。後天性には先述の通りdaptone服用 が原因として最多です。本例には治療としてmethylene blueが静脈内投与されました。12時間後にはSpO2は正常化しています。methemoglobin値は1.5%となっています。R-DHAP療法の4回目が実施されてmantle cell lymphomaは完全緩解、18か月後の現在も緩解を維持しています。methylene blueの投与は肺高血圧症進行作用が懸念されていること、そしてmethylene blueはmethemoglobinemiaの確かな治療適応とは成っていないことが指摘されました。

 今回は説明のつかない不自然な低酸素血症が、服用していたdapsoneによるメトヘモグロビン血症が原因だったという症例でした。築地先生と山田先生(耳鼻科・総合診療科)からこの5年間に当院で経験したメトヘモグロビン血症の2症例を教えていただきました。1例はRapid-Response-System(RRS)担当だった山田先生が、SpO2 80%台だと病棟からのコールを受けて駆け付けると、無症状であり、不思議に感じて動脈血分析した症例(pO2 143.1 pCO2 38.9 )。methemoglobin値は12.1%でした。内服していたdiaphenylsulfoneが原因でした。もう1例は自己流作成した“生薬”を飲んだ後に呼吸困難を訴えて救急外来を訪れた症例。酸素10L(リザーバーマスク)投与下でSpO2 88%、症状は改善。動脈血分析ではpO2 285、methemoglobin値は29.9%でした。

 パルスオキシメーターは救急外来や集中治療室を中心に日常診療の中で広く使用され、使用方法の簡便さとその有用性はこのコロナ禍の中で脚光を浴びることになりました。調べてみますと、その原理は日本光電工業株式会社により発明されたものだそうです(1974年特許)。遅れることわずか、ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)より「オキシメーター」の特許出願がなされました。何と日本発の発明品なのです。プローブは発光部と受光部(センサー)で構成され、発光部は赤色光(660nm)と赤外光(940nm)を発し、これらの光が指先等を透過したもの(または反射したもの)を受光部(センサー)で測定する。酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの赤色光での吸収値は異なりますが、両者の赤外光での吸収値はほぼ同等です。両者の吸収値の比を出すことでSpO2測定が可能というものです。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>