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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case36

2023.10.11

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 10.10.2023

Case 30-2023: A 50-Year-Old Woman with Confusion 10.10.2023

 50歳の女性が昏迷を主訴にMassachusetts General Hospital(M.G.H.)に入院となりました。5カ月前までは特記すべきことなく、その頃嚥下障害が出現しました。1月後にかかりつけ医を受診して錠剤や食べ物が喉を通りにくい、呑み込めないと訴えました。食事量は一日卵2個までに減じました。体重は1か月で5kg減少、esophagogastroduodenoscopy(EGD)が実施されて、12年前に実施されたRoux-en -Y gastric bypass術後の胃空調吻合部に潰瘍を認めましたが、他特記すべき異常を認めませんでした。実施された生検の一部からlymphocytic esophagitisの病理組織学的所見が得られ、fluticasoneの経口投与が開始されました。3か月前になると下腿浮腫が出現して再診されます。嚥下障害の悪化をみずfluticasoneは1週間で中止したとのことでした。体重は更に1か月で3kg減じて下腿にpitting edemaを認め、慢性静脈弁機能障害の診断で弾性ストッキング着用となりました。2か月前になると全身にanasarcaが進行してpitting edemaが顕著となり、体重は1か月で3kg増加しました。血中アルブミン値は2.2(3.5-4.8)、同亜鉛値は0.36µg/ml(0.66-1.10)、vitamin B2, vitamin B12、葉酸、albumin:メチルマロン酸は正常、N Pro-BNPも正常でした。随意尿でalbumin:creatinine ratioは11.6(<30.0)。腹部エコー検査では脂肪肝と少量腹水。手足のpitting edemaは摂取不足による低アルブミン血症が原因で、更にlymphocytic esophagitisに関連する嚥下障害が背景にあると推察されました。fluticasoneの継続投与とビタミン、亜鉛を含んだ栄養剤の内服が勧められ、第4病日に自宅へ退院しました。1か月前になると患者はE. coliによるUTIと昏迷によりM.G.H.に入院となりました。混迷はUTI治療により改善します。彼女の体重は1か月間で2kg減少しました。粘液便・下痢を訴えていました。血清アルブミン値は1.7、同亜鉛値は0.3,selenium値は34ng/ml(70-150)、vitamin A16.6µg/dl(32.5-78.0), vitamin C0.2mg/dl(0.4-2.0)と低値でした。vitamin B1, B3値は正常範囲でした。再検EGD所見は生検所見も併せて特記すべき異常なし。腹部・骨盤MRI検査所見ではIBD、他異常所見なし。ビタミン、亜鉛、セレンを含んだ高蛋白食が勧められて第8病日に自宅に退院しました。退院後当初は気分良く、浮腫も消失し、食欲も増加傾向にありました。6食摂取して蛋白シェイクを1日3回摂取しました。退院後2週間目(今回1週間前)に昏迷がまた進行して歩行障害が出現、歩行器が必要となりました。混迷進行により歩行時に転倒するようになり、家族がM.G.H.の救急外来に搬送しました。来院時本人は質問に返答できませんでした。家族によると一週間で口語障害が進展したとのことです。既往歴に慢性背部痛、双極性障害、痙攣症、潰瘍性大腸炎があります。内服薬はcarbamazepine, ergocalciferol, fluticasone, gabapentin, mesalamine, methocarbamol, mirtazapine, multivitamin, olanzapine, , omeprazole, oxycodone- acetaminophen, selenium, sucralfate, thiamine, topiramate, zinc sulfateです。薬物アレルギーはありません。慢性背部痛症のため支援を受け、就労はしていません。1日2パックの喫煙歴が35年間あります。飲酒歴、違法薬の使用歴はありません。母親に子宮癌、父親に肺癌の家族歴があります。体温は36.8℃、血圧は89/52、脈拍132、SpO2 96%、呼吸数16でした。BMIは28.9、入院前の1か月で6kgの体重減少を認めます。慢性的に具合悪そうで虚弱にみえまが、声掛けに反応します。手足動かせますが詳細な神経学的所見はとれません。末梢血白血球数は17150(4500-11000)、亜鉛値は0.35、銅値は0.28µg・ml(0.75-1.45)、vitamin B6<2µg/l(5-10)、尿中ケトン体が少量陽性でした。胸部単純写真に肺炎、肺水腫の像はありません。尿、血液、便の培養が提出されました。リンゲル3Lが経静脈投与されて血圧は100mHgになりました。3時間後には衰弱が進行して声掛けに反応なく、揺さぶりに反応するも開眼せず返答ありません。頭部単純CT検査所見に異常ありません。胸腹部骨盤の造影CT検査所見では小腸。大腸の一部に粘膜の造影像と粘膜下層の浮腫が明らかです。Vancomycin, cefepime, metronidazoleの経静脈投与が開始されました。来院後6時間の時点で血圧85/45と低下、心拍132でした。痛み刺激に無反応です。ミオクローヌス様の震えが観察されます。norepinephrine投与が開始されて、患者は集中治療室に移されて気管内挿管されました。投与薬剤はcarbamazepine, multivitamin, omeprazole, selenium, sucralfate, thiamine, topiramate, zinc sulfate です。第一病日に血圧は上昇、昇圧剤、麻酔薬が中止されました。患者は無反応です。瞳孔反射は正常、睫毛反射、gag reflex、深部腱反射は正常です。頭部CTは著変ありません。第2病日に好中球増多症は正常化、意識障害は変わりません。EEGではgeneralized periodic dischargeと3相波様の波形が認められます。頭部MRIに著変を認めません。髄液検査も異常を認めませんでした。尿倍でK. pneumoniaeが検出されましたが血培陰性。便中のC. difficile、虫卵、寄生虫は陰性です。Vancomycin, cefepime, metronidazoleは中止されてciprofloxacinが開始されました。第三病日に意識障害に変化なし、EGDは吻合部の瘢痕のみで粘膜に異常なし、S状結腸内視鏡検査にも異常ありませんでした。

 <DIFFERENTIAL DIAGNOSIS>

  M.S.H.内科のAmulya Nagarur先生の解説です。本例はRoux-en-Y gastric bypass歴のある50歳女性で、潰瘍性大腸炎、bipolar disorder、seizure disorderの既往歴があります。当初は低栄養と全身浮腫で発症しましたが急速進行性の脳症が進展します。本例のbackgroud, midground, foregroundをレヴューすることで本例の”illness script”を考えてみたいと思います。

  BACKGROUND 今回の5か月前に嚥下障害で発症して体重減少が出現します。生検組織所見からlymphocytic esophagitisの診断が得られます。gastric bypass surgeryによる胃食道逆流症が原因でしょうか。経口fluticasoneによる治療は効果が得られませんでした。筋肉量の減少と浮腫が進行します。2か月前に全身性浮腫により入院となりました。

lymphocytic esophagitisによる経口摂取の減少が栄養障害を来して、低アルブミン血症につながったことが原因と考えられました。顕著な病像は低アルブミン血症でしたが先天性低アルブミン血症は常染色体劣勢遺伝の極めて稀な疾患です。ネフローゼ症候群は本例では尿検査で否定されます。深刻な炎症は血管透過性と血管外漏出により低アルブミン血症を来しますが本例の既往歴からは否定的です。この時点でタンパク漏出性腸症は可能性として残ります。

  MIDGROUND 1月前になると更に新たな病像が出現します。即ち下痢の出現で、タンパク漏出性腸症が考察されてEGD、MRI検査が施行されますが特記すべきことありません。経口摂取不良が原因かと考察されますが、肝臓での合成による代償があることを考慮すると別の原因検索が必要かと思われます。

  FOREGROUND 入院の1週間前になりますと患者は急速進行性の意識障害を呈して、歩行障害、転倒を合併します。K. pneumoniaeによる尿路感染症を合併します。昇圧剤、抗生物質投与により低血圧は回復しますが意識障害は回復しません。

  ALTERED MENTAL STATUS 意識障害の鑑別診断は広範になりますが感染症/非感染症、そして頭蓋内病変と頭蓋外病変といった見方で考察したいと思います。頭蓋内感染症としては脳炎、脳梅毒、プリオン病などが考慮されますが本例の髄液検査は正常でした。頭蓋外感染症として尿路感染症がありましたが、治療されたにもかかわらず意識障害は回復しませんでした。血液・便の培養は陰性です。画像診断にも特記すべき所見はありません。非感染頭蓋内病変として脳卒中は画像的に否定されます。本例の既往歴にあるseizure disorderについてEEG所見はtoxic-metabolic processの所見でした。自己免疫性脳炎、腫瘍随伴脳炎、血管炎、プリオン病は臨床像も異なり、CSFは正常でした。急速進行性認知障害は可能性として残ります。非感染性頭蓋外病変としては本例には更にいくつかの可能性が考えられます。即ち、一つは投与されている薬の影響です、殊にcarbamazepine, gabapentin, methocarbamol, olanzapine, oxycodone-acetaminophen, topiramate等の影響は如何でしょうか。しかし、何れも最近開始された内服薬でなく、栄養障害が背景にあって出現したと推察したとしても経過的には合致しません。myxedemaも考慮される必要がありますが、臨床像が異なります。本例にはRoux-en-Y gastric bypassと潰瘍性大腸炎、栄養障害、低アルブミン血症の既往があり、代謝性脳症の可能性が非感染性頭蓋外病変として重要です。

  NUTRITIONAL DEFICIENCY 潰瘍性大腸炎はビタミン類を併せた栄養障害を合併します。特にビタミンB12は意識障害を来します。しかしながら潰瘍性大腸炎はMRI検査所見では活動的でないと考えられ、血中ビタミンB12値は正常でした。Roux-en-Y gastric bypassの既往は経口摂取の低下と吸収異常により、ビタミン類を含んだ栄養障害が懸念されます。Roux-en-Y gastric bypassの既往による栄養障害のうち意識障害を来す最も可能性のあるものとして、ビタミンB1、ビタミンB3がいわれますが本例では何れも正常でした。本例に見られる意識障害の原因に栄養障害は関与していることが想像されますが、単一の栄養素不足によっては臨床像が説明されないようです。

HYPERAMMONEMIA 高アンモニア血症性脳症はアンモニアが高値を示し、原因となるリスク因子が明らかで臨床像が合致する場合に診断されます。肝性脳症は臨床的な症候群ですが、肝硬変があって門脈体循環シャントが形成されると肝臓でのアンモニア代謝が稼働せずに発症します。肝性脳症は様々な意識障害と臨床像を呈します、例えば羽ばたき振戦とかです。本例は進行性の意識障害とミオクローヌス様振戦を認めますが肝硬変の合併は明らかでありません。しかし彼女は非肝硬変性高アンモニア血症の可能性を有しています。

NONCIRRHOTIC HYPERAMMONEMIA 本例の臨床像は高アンモニア血症をきたす急性肝不全に合致しません。高アンモニア血症は経口・経静脈的な高蛋白負荷によって、或いは消化管出血により発症する可能性があります。更には高度の栄養障害による異化の更新状態でも発症します。本例に見られた進行性浮腫にも拘らず進んだ体重減少は筋量減少とサルコペニアによる可能性が考えられます。筋肉は需要な肝外のアンモニア代謝臓器で、かつサルコペニアは高アンモニア血症の原因となり得ます。幾つかの薬物や毒物は、例えばvalproateなどは尿素回路に作用して高アンモニア血症をきたす可能性があります。carbamazepineが高アンモニア血症と羽ばたき振戦を合併したとの報告もありますが極めて稀な例です。K. pneumoniae等のような尿素産生筋による感染症が高アンモニア血症を来す可能性もあります。本例には先天的、後天的な尿素代謝障害も考慮されますが、既往歴にあるRoux-en-Y gastric bypassが可能性のある病状として考えられます。

HYPERAMMONEMIA  AFTER ROUX-EN-Y GASTRIC BYPASS 

 近年Roux-en-Ygastric bypassと高アンモニア血症の合併が知られるようになり、専門家からは”gastric bypass hyperammonemia syndrome”という呼称が提唱されています。中年の女性に好発するとされて、特徴は低アルブミン血症、栄養障害、血清グルタミンの高値、低亜鉛血症などです。診断・治療の遅れは予後を悪化させ、致命的ともなります。男性よりも女性に好発する点などは、尿素代謝に重要となるornithine transcarbamylase(OTC)などをencodeする遺伝子の変異などが仮説として考えられます。亜鉛は同代謝回路の中で補酵素として働きます。Roux-en-Y gastric bypass後アンモニア合成の亢進、門脈体循環シャント、腸内細菌巣の異常、異化の亢進などが併せてこの病状の原因となっていることが予想されます。本例にはRoux-en-Y gastric bypass後の非肝硬変性高アンモニア血症が示唆されて、高蛋白栄養、サルコペニア、carbamazepineの代謝への影響、K. pneumoniaeによるUTIなどが合併して関与している可能性が考慮されると思います。

<DIAGNOTIC TESTING> 診断的検査は勿論血清アンモニア値で、本例では複数回の検査で90~107μmol/l(12-48)と高値でした。血漿アミノ酸も低値で栄養障害を示します。尿中orotic acid(proximal urea-cycleの障害で高値となります)が軽度高値でした。繰り返し検査した血漿アミノ酸でproximal urea-cycleの障害で認められる高グルタミン血症、低シトルリン血症は認めませんでした。OTC異常症による遺伝性代謝異常により高値となる76 monogenic disorderは明らかとなりませんでした。

  <DISCUSSION OF MANAGEMENT> 傾向のrifaximinとlactuloseが投与されてマルチビタミン、亜鉛、セレニウムサプリメントが継続されました。経口銅サプリメントも開始されました。1週間後には血清アンモニア値は正常化して意識障害は回復しました。再発と予後不良も予想されて外科的なbypass閉鎖が議論されましたが、外科手術のリスクを考慮のうえ、保存的治療により経過観察されることになりました。しかし治療継続にも関わらず3か月後に低アルブミン血症と高アンモニア血症が再燃します。胃瘻チューブが留置されて経管栄養により病状は回復しましたが2年後にまた再燃しました。結局この時点でbypass閉鎖術が実施されました。術後狭窄に対して内視鏡的拡張術が数回必要となりましたが状態は良好です。

   “肝硬変を合併しない肝性脳症”noncirrhotic hyperammonemia 、或いは“肝硬変を合併しない門脈圧亢進症”はこのところ、火曜朝の抄読会に何回か登場しています。振り返ると8月1日のcongenital extrahepatic portosystemic shunt(CEPS)、9月5日のTunner syndrome、に続く今回の症例でした。”gastric bypass hyperammonemia syndrome”という呼称を私は初めて聞きました。しかし明日の救急外来にも現れそうな、言われたらなるほどと理解可能な病態です。今回も大変勉強になりました。  <伊東ベテランズ 川合からの報告です。>