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CASE RECORs of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会Case 1-2023
A 49 Year Old Man with Hypokalemia and Paranoia 17.01.2023
2023年になりました。我々伊東ベテランズで催す火曜朝の抄読会、CASE RECORDs of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会が今年も始まりました。伊東ベテランズは病棟で直接担当医になることが少なくなっていますが、毎週この抄読会で診るCASEを受け持ち患者と疑似体験しながら継続しています。毎年40件の症例を経験することになり、臨床の世界標準・M. G. H.からあんなこと、こんなことと多くを経験・共有することで勉強しています。若手・中堅の皆さんも興味をお持ちの方、是非御参加をお勧めします。
という訳で今年の記念すべき第一例目です。ネブラスカ大学病院・内科の症例です。
49歳の男性が右側胸部違和感を主訴に 6 か月前に来院されました。左上葉の原発性肺癌、小細胞癌 ”limited”と診断されます(肺小細胞癌はlimited stageとextensive stageの2つのdisease stage に分けられているそうです)。結局、本人の強い意向で彼は精査も治療も受けませんでした(彼は以前に non Hodgkin lymphoma の治療歴があり、その時以来医療に心を開かない様子が窺われます )。6 週間前に両側下肢の浮腫に気付いて再診しました。
肺門・ 縦隔リンパ節の広範な腫大と肝・副腎腫瘤を認め 遠隔転移”extensiveの診断になりました。彼は同時に高血圧、低 K 血症、近位筋の脱力、皮膚の色素沈着、更には paranoia(偏執症?)を呈しています。
内科 Vocoun 先生の解説です。最近発症した情動変容(altered mental tatus)/paranoiaに注目して鑑別します。
①INTOXICAION OR WITHDRAWAL
②METABOLIC DISORDERS
③PRIMARY PSYCHIATRIC DISORDERS
④CENTRAL NERVOUS SYSTEM PROCESS
⑤EFFECTS OF ALTERNATIVE TREATMENT
⑥PARANEOPLASTIC SYNDROME
と鑑別・考察が進められて、皆様お気付きのように 肺小細胞癌からの ACTH 異所性分泌によるCushing’s syndrome の診断と なりました。治療としては内分泌学的な側面からは副腎皮質における aldosterone cortisol testosterone 新生経路に介入する Mitotane に代表されるような薬剤、末梢Cortisol receptor に作用する Mifepristone について考察されて、本例ではMifepristoneが使用されます。が使用されます。オンコロジーとしてのオンコロジーとしての側面からは抗癌化学療法、照射などが考察されますが、御承知のように肺小細胞癌は初期治療が著効しますが、背景から推定すると本例の平均生存期間は背景から推定すると本例の平均生存期間は25~35カ月と計算されるそうです。
治験への参加も提案されましたが、結局本例は治療を拒否されて緩和ケアに移行、退院後7週間後に自宅で御家族に見守られて逝去されました。週間後に自宅で御家族に見守られて逝去されました。Discussionに参加された御遺族から、世界の医療関係者が本例の経過を経験・共有していただけることが本望だと感謝の言葉がありました。
Paraneoplastic syndrome は”hormone associated or immune mediated” の2種類が明らかですが、本例はその病態生理の複雑さをあらためて認識される症例だと勉強になります。
そしてもう一つ、健康な比較的若年者に発症する ”aggressive”への医療介入の難しさ (治療の選択、本人、ご家族への説明と対応)、我々にも似たような経験があったなあと痛感させられました。
<伊東ベテランズ 川合からの報告です>