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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case5

2023.2.14

CASE RECORs of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会Case 4-2023

A 56-Year-Old Man with Abnormal Results on Liver testing 14.02.2023

 今回は56歳の男性、肝障害の原因検索です。検査所見、身体所見、更に画像診断を併せると、すでに慢性門脈血栓症と門亢症を合併する肝硬変であり、肝性脳症も既往にありました。Grade2の食道静脈に対して内視鏡的結紮術も施行されています。主だった病歴としてはビール6杯/日、30年間の飲酒家であること。HCV抗体が陽性でRNAは検出されなかったこと。そして”intravenus opioid user”です。検査所見としては、この3年間AST優位のAST/ALT高値、更にALP、gGTP、Bilirubin、Ammoniaの高値があります。末梢血の血小板数は43000(150000<)、IgG2105(<1600)、IgM874(<279)、ANA<160(<x160)、Antimitochondorial antibody x5120(<x20)でした。BNP177(<900)、総コレステロール値380(<155)でした。心エコー検査では収縮能に問題ありませんが軽度の両房拡大と三尖弁閉鎖不全、右室収縮気圧が71mmHgと高値でした。

  M.G.H.内科Bhan先生の鑑別診断と解説です。

<HCV INFECTION>

 本例は血中RNAが認められず、治療歴もありませんので本例は20~50%と報告される自然治癒例と考えられます。抗体検査が擬陽性を示した可能性もあります。

<ALCOHOL CONSUMPTION>

 最近の検査結果では肝細胞障害性よりも胆道系障害/閉塞による胆汁うっ滞性障害が疑われます。”R factor”というALP/ALTから計算される<2の値は胆汁うっ滞型を示唆するとされる値が本例では0.4でした。

 <CHOLESTATIC PATTERN OF LIVER INJURY>

 浸潤性である場合にはcancer,  amyloidosis、infection等が考慮されます。慢性的なopioid userにはOddi括約筋収縮傾向による胆道内圧亢進を示唆するようなMRCP所見が生じます。Congestive hepatopathyもそれらしくありません。本例ではALP高値が顕著で、抗ミトコンドリア抗体が陽性primary bilialy cholangitisに一致する所見です。

<PRIMARY BILIARY CHOLANGITIS >

 中年女性に発症頻度の高い自己免疫疾患のひとつであることは周知の事実です。診断基準としては①ALP高値を伴う生化学的な胆汁うっ滞があること、②抗ミトコンドリア抗体が陽性であること、③病理組織学的に非化膿性胆管炎があることの3つのうち2つが該当することが必用です。IgM高値、高コレステロール血症も参考になります。皮疹、関節痛(関節包炎)を伴うこともあります。ALP値は漸増してplateauになり、後比較的定常化します。ステロイドは”inflammatory subtype”には効果を認めますが一般的には効きません。

<OVERLAP SYNDROME>

 PBCにはsarcoidosisやAutoimmune hepatisis(AIH) との合併例がOverlap Syndromeとして知られています。AIHとの合併については抗平滑筋抗体陽性の有無が参考になります。

<PORTAL HYPERTENSION>

 本例は画像診断的にも門亢症を合併した肝硬変であるように見えますが、PBCでは肝硬変に進展する前にpresinusoidal portal hypertensionといわれる病態があることを理解する必要があります。

 <PORTOPULMONARY HYPERTENSION>

 本例では右室収縮気圧の高値が指摘されて肺動脈圧亢進症が疑われます。除外診断で肺動脈亢進症がportopulmonary hypertensionとなる可能性があり、この場合は肝移植の優先順位に利用されるMELD scoreにおいてもhigh riskに数えられます。

CLINICAL IMPRESSIONとしてはcongestive hepatopathyは否定できませんがPBCが強く疑われて本例では経経静脈的肝生検が右心カテーテル検査と併せて施行されました。

PATHOLOGCALDISCUSSION  肝生検の病理組織所見では非化膿性胆管炎が顕著でしたが、意外にも肝の線維化や構造破壊はほとんど認められませんでした(肝硬変ではありませんでした)。Stage 2/4のPBCと診断可能でした(HCV関連、アルコール関連、nonalcoholic fatty liver disease関連の所見を認めませんでした)。

DISCUSSION OF MANAGEMENT  PBCの症状は倦怠感と掻痒が主なものです。比較的発生頻度の少ない男性において血清ビリルビン値は高い傾向にあり、且つ特効薬であるurusodeoxycholic acidの効果が女性に比べて低いと報告されています。

本例は門脈圧亢進状態が顕著でしたが、これについては”noncirrhotic portal hypertension”であることが示されています。一方portopulmonary hypertensionの可能性があり、本例については肝生検時に施行された右心カテ検査結果が慎重に考察されます。肝疾患症例には肺高血圧症が幾つかのメカニズムが働いて合併すると言われています。則ち、遺伝的素因、血管作動性メディエーターの影響、高循環活動性、そして液体過剰です。本例では肺動脈喫入圧が55mmHg(<20)、肺血管抵抗は8.5Wood units(<3)と計算されました。

他に肺動脈高血圧の原因は認めらえず、portopulmonary hypertensionと診断されました。

PBCの確かな治療方法は肝移植ですが肺動脈圧は35mmHg以下にコントロールされることが望ましいとされています。本例には肺動脈高血圧症の治療として使用されるsidenafilとinhaled treprostinilが投与されて1年後には肺動脈圧が21mmHgに改善しました。当初数えらえたMELD score値28も11に減少して、尚肝移植の待機組になっています。

 築地先生は本例のpresentationを読んで、HCV抗体陽性や多飲酒歴に惑わされるが病態生理はPBCが最も疑わしくて、診断的検査手技として肝生検が必要となるだろうといみじくも指摘されました。

 我々消化器内科医にとってPBCは日常診療で必ずしも稀な病態と思われません。脾腫(血小板減少症)、肝性脳症(門脈・大循環シャント)、食道静脈瘤といった門脈圧亢進状態を見ると直ちに完成された肝硬変と考えがち(これもcognitive bias/heuristics)ですが、”presinusoidal portohypertension”、”noncchirotic portohypertension”という病態があることを理解すると、鑑別診断にはいつも慎重でなければいけないな、と感心させられました。 

 肝移植について、“かつて高速道路の制限速度をひきあげようという動きが国内にあった時に、それは足りない移植臓器提供を促進させようとする謀略だとの批判が起こった程の移植国がアメリカです”との御指摘が田中先生からあって納得。面白かったです。今回も大変勉強になりました。 

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>