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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case10

2023.3.28

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 Case 8-2023

A 71-Year-Old Woman with Covid-19, Refractory Hemolytic Anemia 28.03.2023

 既往歴として再発乳がんとdiffuse cutaneus systemic sclerosisがある71歳女性が難治性の溶血性貧血で前医に入院しました。7か月前に倦怠感、労作時呼吸困難で発症して循環器内科、呼吸器内科ではその原因が明らかになりませんでした。2か月前になると症状が増悪、更に動悸、眩暈が出現して前医を受診、溶血性貧血の診断で入院となりました。検査結果では末梢血Hb7.0, MCV106.7, WBC11200, Plt.230000,  Reticulo13.4(<2.0), 末梢血の塗抹検鏡で破砕赤血球を認めます。生化学でLDH675, Tbil2.8, Haptoglobin<15, D-dimer5021(<500), fibrinogen330(-400), 凝固でPT-INR1.0,  APTT24.6, 他、Cooms(-), lupus anticoagulant(-), β2-glycoproteinⅠ, cardiolipinに対する抗体は何れも陰性でした。SRAS-COV-2に対するPCR testは陰性、全身CTでは縦郭、肺門にリンパ節腫大を認めましたが2年前と著変ありません。クームス陰性自己免疫性溶血性貧血がworkig diagnosisとなり、輸血を受けました。ステロイド治療は効果を得られませんでした。入院後に発症した高血圧(150/60)を考慮してscleroderma renal crisisをworking diagnosisとしてcaptoprilが投与されます。thrombotic thrombocytopenic purpura(TTP)をpossible diagnosisとしてADMTS13 activity検査が提出されて(後日の結果では65%(>67%))血漿交換が実施されます。溶血は継続してeculizumab, rituximab, intravenous immune globulinも投与されますが効果は得られません。輸血を繰り返して、epoetinα注も使用されます。骨髄生検では3系統の正常な造血を認めました。血小板減少が出現してステロイド再投与、cyclophosphamide投与も無効でした。acute kidney injury(AKI)も進行して第50病日にM.G.H.に転院となりました。転院時には2か月で9kgの体重減少がありました。21年前にTNM分類T1cpN1aM0, estrogen receptor(ER)-positive, human epidermal growth factor receptor 2-negative, invasive lobular breast cancerが左側乳房に診断されています。lumpectomy, adjuvant chemotherapy, radiationが施行されて tamoxifenが5年, letrozoleが2年間投与されました。今回の入院3年前に左腋下に局所再発(リンパ節生検は陰性)しました。追加の抗癌化学療法は拒否され、6か月前に追加画像診断がされましたが新たな病変は明らかになりませんでした。systemic sclerosisについては3年前に診断されて抗RNA polymelaseⅢ抗体陽性、皮膚に現局しており治療歴はありません。他に既往歴としてSḧogren’s Syndrome, GERD, 脂質異常症、骨粗鬆症があり、30年前に潜在性結核と診断されてisoniazidを9か月間内服しています。内服薬はexemestane,  goserelin, calcium, cholecalciferol, pantoprazole, rosuvastatinです。S-T合剤に皮疹歴あり、飲酒は稀、喫煙は3年間、50年前に禁煙しています。3人の姉妹が70歳台で乳がんを発症しています。溶血の家族歴はありません。身体所見ではBMI17、血圧162/98, 呼吸数22です。結膜に黄疸と貧血を認めます。左乳房に術後の瘢痕、表在リンパ節は触知しません。検査結果では血小板が43000と減少しBUN/Cr 62/2.87, TBil4.1, D-dimer9821, LDH5896と更に増加しています。末梢血の塗抹検鏡では破砕赤血球と幼弱骨髄球系細胞が出現していました。

 Yale医科大学内科のLee先生の鑑別診断と解説です。本例には病態生理としてmicroangiopathic hemolytic anemia(MAHA)があることは明らかです。MAHAは血管内溶血の一つとして数えられますが、局所障害として破砕赤血球に特徴づけられます。そして本例に合致するthrombotic microangiopathy(TMA)はMAHAに特徴づけられる病態の一つで、血管内皮の活性化と血管内凝固に伴う微小血管閉塞と赤血球破壊、血小板消費をきたしますが、末梢血の血小板数は当初正常値であることも稀でありません。TMAは背景にある原因疾患を明らかにして治療に結び付けることが重要です。という訳で以下の病態が鑑別されます。

  1. THROMBOTIC THROMBOCYTOPENIC PURPURA(TTP)
  2. HEMOLYTIV-UREMIC SYNTROME(HUS)
  3. DISSEMINATED INTRAVASCULAR COAGULATION(DIC)
  4. MALIGNANT HYPERTRENSION
  5. DRUG-IDUCED TMA
  6. CATASTROPHIC ANTIPHOSPHOLIPID SYNDROME
  7. SCLERODERMA RENAL CRISIS
  8. CANCER-ASSOCIATED TMA

 以上は本例について全てがworking diagnosis あるいはpossible diagnosisとして考慮され、何れに対してもempirical な治療がされています。即ち、血漿交換、ステロイド,  cyclophosphamide, intravenous immune globulin, rituximub等による免疫療法、抗補体薬であるeculizumabの投与などですが、何れも効を得られませんでした。結局、乳がんの既往歴と臨床像を併せて再発乳がんを背景としたcancer-associated TMAが強く疑われて、画像診断としてPET-CT検査がされ、全身の骨髄中にFDG-PETの顕著な取り込みを認めました。そして骨髄生検の再検査が実施され、乳がん転移による骨髄癌腫症と診断されました。治療としては進行するAKIを考慮して本例ではpaclitaxelが投与されましたが、副作用により中止、本人の選択によりホスピスケアとなり退院、在宅で1月後に亡くなります。

 実は40年前のN ENGL J MED”CASE RECORDS OF THE MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL (Case26-1984) ”に本例と類似症例が発表されています。「癌診療の領域には多くの進歩がみられている現在においても、尚cancer associated TMAの治療は大きな問題となっているのです。」とコメントされています。

 癌診療の進歩にも関わらずこの40年間cancer associated TMAの治療に新た展開がみられない事実は何とも印象的です。因みに40年前のCase 26-1984 のタイトルは”Microangiopathic Hemolytic Anemia in a 53-Year-Old Woman with Metastatic Breast Cancer”でした。N Engl J MedのウェブサイトからCASE RECORDSをさかのぼって検索してみますとN Engl J Med 1923;189:5959-599 CASE9431までの100年分が閲覧可能となっています。N Engl J Medの発刊は1812年、今から200年以上前に数えられます。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>