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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case11

2023.4.5

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会2023 Case-9

A 20-Year-Old Man with Shortness of Breath and Proteinuria 03.04.2023

 双極性障害のある20歳の男性が血痰と低酸素血症を訴えて転送されてきました。

11か月前に双極性障害の診断を受けています。6週間前に興奮状態に対する入院治療中に受けた胸部打撲による疼痛が続き、更に吐気・嘔吐、食思不振が出現して別病院に転院となります。そこで得られた胸部CTで左肺のすりガラス陰影を指摘されて、打撲・肺挫傷と診断を受けます。10日前に胸痛は継続しており、更に咳が出現、吐気が増悪しています。更に別の病院を受診して胸部単純写真で左肺下葉の浸潤影と同側胸水を指摘されました。肺炎の診断で投与されたdoxycycline6日間の内服で咳と吐気は消失しました。しかしながら数日のうちに咳は再燃して黄色の痰が出現、血性痰となりました。吐気も増悪傾向です。同院の救急外来を受診して体温37.7℃、血圧99/50、脈拍127bpm、呼吸数31、SpO2 95%(室内気)でした。末梢血Hb11.3, 血清alb1.3/dl、fluA,B, SARS-COV-2抗原が何れも陰性です。胸部造影CTでは、何と多発する肺動脈血栓症と肺梗塞像が明らかとなりました。患者は同院に入院してenoxaparin, vancomycin, cefepime投与が開始されました。第二病日に酸素化が悪化して酸素投与が必要となりM.G.H.に転送されました。追加聴取しますと倦怠感と体重減少は胸部打撲時から始まっています。既往歴には気管支喘息と偏頭痛、注意力障害ありました。内服薬はquetiapine, paliperidone, methylphenidateです。サルファ剤とバルプロ酸で薬疹、吐気・嘔吐を経験しています。性的には複数女性との経験があり、飲酒は稀、マリファナ吸入をしばしば経験してますが、喫煙、違法薬物の使用歴はありません。母親、叔母、伯母、叔父にうつ病が家族歴としてあります。体温38.6℃、血圧89/40、脈拍121bpm、呼吸数20、SpO2 99%(2LO2 by nasal canula)、左肺で呼吸音が減弱しています。情動変容を認めますがパラノイア、幻覚はありません。検査結果では末梢血Hb8.7, WBC7310(リンパ球710,好酸球190)、血小板213000。BUN/Crea13/0.98, Lactic acid 0.6,

Alb1.6g/dlでした。尿所見では潜血2+, 蛋白3+, 沈渣で赤血球、白血球、Hyaline castが顕著でした。

 M.G.H.小児科のFitzgerald先生の鑑別診断と解説です。本例は肺梗塞をきたす肺動脈血栓を起こすような全身性の病態を呈し、更に尿蛋白、顕微鏡的血尿、活動性の尿沈渣を認め糸球体腎炎の合併が考えられます。糸球体腎炎と肺病変を合併する病態に注目したいと思います。

1) INFECTIVE ENDOCARDITIS(I.E.) 

  I.E.は右心系での血栓形成と免疫複合体による糸球体腎炎をきたしますが、本例の全身状態とは異なります。

2) POSTSTREPTOCOCCAL GLOMERULONEPHRITIS

 A群連鎖球菌感染が糸球体腎炎をきたす前にあったようには思えません。

3) IGA NEPHROPATHY OR HENOCH-SḦONREIN PURPURA NEPHRITIS

 前駆する典型的な上気道炎症状・鼻炎、咽頭痛、倦怠感といった症状を欠いていますし、何より紫斑がありません。

4) ANCA-ASSOCIATED VASCULIYIS

 eosinophilic granulomatosis with polyangiitis(EGPA), granulomatosis with polyangiitis,(GPA),  microscopic polyangiitis(MPA)が含まれます。何れも特徴的な臨床像、すなわちEGPAでは好酸球増加症や喘息、神経障害といった全身症状が出現し、GPA、MPAの多くは高齢成人発症です。

5) ANTI-GBM DISEASE

 多くは腎病変として急速進行性糸球体腎炎をきたしますし、本例は当初腎機能正常でした。

6) SYSTEMIC LUPUS ERYTHEMATOSUS

  白血球減少症と低補体血症があり、易感染性を呈します。抗リン脂質抗体症候群を合併して血栓形成傾向をきたします。本例は偏頭痛とレイノー現象に類似した兆候を認め、これは抗リン脂質抗体症候群に特徴的です。本例は来院時に神経症を認めましたがCNS lupusとして知られる神経・精神症状かもしれません。顕著なリンパ球減少症も貧血(自己免疫性貧血の可能性もある)も合併しています。American College of Rheumatology criteria and Systemic Lupus Erythematosus International Collaborating Clinics(SLICC) criteriaがSLEの診断基準を提唱しています。抗核抗体、抗2重鎖DNA抗体、他の自己抗体が血清学的な指標になります。本例においては腎生検が確定診断、予後、治療選択につながるものと思われます。そして本例についてはSLEが症状、臨床像ともに最も疑われる診断だと思われます。

 追加された血清学的検査では抗GBM抗体、ANCAは何れも陰性でした。Lupus anticoagulant, ANA(1:320), anti-dsDNA antibody(1:640)は陽性でした。C3は74(81-157)と低値でした。経皮的腎生検(Core needle biopsy)で得られた検体の病理組織学的所見(通常の光顕、免疫抗体染色および電顕)でみると”full house”として知られるIgG, IgA, IgM, C3, C1qが何れもメサンギウムと糸球体基底膜に沿って沈着する所見も得られ、membranous lupus nephritisと診断されました。

 SLEの治療についてはEBMに沿った多くの知見が得られており、membranous lupus nephritisの導入療法としてはprednisone+cyclophosphamide或いはprednisone+mycophenolate mofetil が推奨されています。membranous lupus nephritisが顕著な蛋白尿、或いはネフローゼを合併する場合には12~13%が末期腎不全に進行するといわれており、その治療には十分な注意が必要です。本例には当初ステロイドパルス療法とcyclophosphamaideによる治療が開始されました。維持療法としてmycophenolate mofetilが、補助療法としてhydroxychloroquineとlisinoprilが加えられました。lupus cerebritisについては画像診断でMRI検査に異常なく、髄液検査は正常でした。

 当初抗リン脂質抗体群を想定してenoxaparinが投与されて、後warfarinに変更されましたが結果的に抗リン脂質抗体症候群に関する検査は陰性でした。しかし、活動性SLEに対しての抗凝固療法としてapixabanの経口投与が続けられ、本人の希望で(一日1回内服ですむ)warfarinの内服に代えられました。経過中に病勢の再燃が明らかとなってB-cell に対するIgG monoclonal antibodyであるbelimumabが投与されています。診断後12か月が経過して、belimumabとmycophenolate mofetil投与が継続されて病状は安定しています。

 今日は新年度最初の“火曜朝の抄読会”でした。当院にも新たに8名の初期研修医が入職されました。いつもはベテラン3名でするこの会に、本日は彼らが参加されて随分と賑やかになりました。勿論、自己研鑽としての自由参加です。「M.G.H.での臨床を世界中で経験共有できる(ただ一人、へき地の診療所にあっても)、すばらしい症例報告の掲載です」などと、つい力んでしまいました。

 私が新米医師だった頃(かれこれ40年も前)、“全身的な病態が予想されて複雑な病像を呈する比較的急性期疾患を前にした時には、感染症の中では結核(後にAIDSも)、悪性腫瘍では悪性リンパ腫(後には腫瘍関連疾患も)、勿論血管炎を含むリウマチ疾患を考慮すること”と、先輩医師に何度も説かれた記憶が蘇ります。今回のお題はそれらの中でリウマチ疾患の代表格であるSystemic Lupus Erythematosus: SLEでした。こういった症例報告を前にするたびに自身の研修医時代を思い出してしまいます。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>