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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case20

2023.6.6

CLINICAL PROBLEM-SOLVING

A Wrong Turn 06.06.2023

 今年(2023年)第4回の<CLINICAL PROBLEM-SOLVING>の紹介です。ColumbiaUniversity Irving Medical Centerからの出題と解説です。

  鎌状赤血球症のある21歳の女性が出産後第5日に腹痛と息切れを主訴に来院されました。彼女は妊娠38週と5日に胎盤早期剥離に対して緊急帝王切開して出産、出血性ショックと汎血管内凝固症候群・DICを合併してmassive-transfusion protocolに従って治療されて回復、産後第3日(今回の再診2日前)に退院となりました。退院時末梢血Hb値は9.3g/dlでした。頚部痛と一過性左上肢の脱力を合併します。腹痛と呼吸困難から、当初は出血、感染症、敗血症、深部静脈血栓・塞栓症、周産期心筋症、spontaneous coronary-artery dissection(SCAD)などが考慮されました。身体診察、胸部単純写真、一般検査所見を併せてvolume overloadを伴ううっ血性心不全の心不全と診断されました。凝固異常症、肺動脈血栓症、心筋症、心筋虚血、massive-transfusionによるhigh-output heart failureが考察されます。造影CT検査所見では脳卒中はありません。下腹部に血種を認めます。

 造影CT検査に際して顕著な造影剤アレルギーを合併しました。子癇前状態の可能性も否定できません。血検査所見では末梢血白血球数9910, Hb9.3,血小板150000, 血清Troponin55(<15), NT-proBNP1102(<178)でした。心筋障害が明らかですので、acute coronarysyndrome(ACS), SAD, 周産期心筋症、ストレス心筋症、出産後子癇などが考えられます。心電図検査では洞調律、ST変化なく、陰性T波がV1, 2,Ⅰ, AVL, に認められ、Q波がV1,2に認められました。TTE検査ではEF30-40%、左室は全体的に運動低下、軽度の拡張傾向を認めて、右室収縮期圧は39(<30)でした。ドップラーエコーでは肺動脈主幹に拡張期に乱流が顕著でした。心電図検査所見・左室機能からは心筋虚血が疑われますが、ST上昇はなく、緊急心臓カテーテル検査が必須とはなりません。心筋障害を考慮すると心筋症が疑わしいのですが、周産期心筋症はあくまで除外診断です。心エコー検査で指摘された肺動脈内の乱流は動脈管開存症、冠動脈瘻、稀な疾患ですが成人発症のanomalous left coronary –artery originally from the pulmonary artery(ALCAPA) / Bland-White-Garland syndromeが考えられます。若い女性の肺高血圧症も考えられますが肺高血圧の程度が軽度で、乱流は拡張期のみに見られること、左室不全を合併することからはそれらしくありません。その後の48時間でfurosemideの投与で呼吸困難は消失しましたが、血清troponin値は426、NT-proBNP値は8560と増加しています。心電図検査所見では前胸部誘導で陰性Tが顕著となり、側胸部誘導でST低下があきらかになっています。緊急心臓カテーテル検査を患者さんはヨードアレルギーを理由に拒否されました。心筋虚血が疑われて、慎重なgadolinium造影によるMRI/ MRA検査がされました。結果EFは45%、心筋は厚さが減じて心内膜下の造影効果の遅延化がみられました。更に右冠動脈の拡張とALPACAが疑われましたがMRIでは空間分解能に限度があります。ALCAPAが強く疑われて、冠動脈血栓が否定的となったので、ヨードアレルギーを理由に心カテを拒否する患者さんに対して、ステロイドと抗ヒスタミン薬の投与下にCT angiographyが実施されました。結果ALCAPAが明らかとなり、右冠動脈から左冠動脈への側副血行路が顕著でした、左冠動脈はこれら側副血行路から逆行性に供血されていました。患者さんには心原性突然死も懸念され、外科手術による再建術が成されて無事第30病日に退院となりました。

COMMENTARY

  若い女性が出産後の非代償性心不全を合併した時の鑑別診断には多くが含まれます。周産期心筋症やストレス心筋症は除外診断となります。他に原発性として、肺血栓症、SCAD、ACS、心筋炎、先天性心疾患などです。そんな中で本例では包括的な病歴聴取、画像診断を駆使して稀な成人発症のALCAPAの診断に至りました。第一の診断的な手掛かりとなったのは心エコー検査所見でした。肺動脈主幹内に指摘された乱流は心筋症では見られません。鑑別診断は冠動脈・肺動脈瘻、ALCAPA、動脈管開存症となります。動脈管開存症では乱流が拡張期のみならず見られるので除外されます。第二の診断的手掛かりは造影MRI検査所見です。心内膜化の造影遅延と血管分布でした。心内膜化の線維化を示す所見は心筋症には認められません。ALCAPAは300000件の出産に対して1例の頻度とされ、外科手術なしに成人までの生存例は10~15%とされます。成人発症時の症状は倦怠感、呼吸困難、狭心症、不整脈、心筋梗塞、突然死です。成人発症の集計例でみると平均年齢は41歳、14%は偶然に発見されて、12%は剖検で発見されています。突然死が懸念されて治療は外科手術です。本例は包括的に鑑別診断を考えることの重要性を指摘しています。産後の心不全の原因は周産期心筋症が最もよく知られていますがあくまで除外診断で、背景にある原発性疾患・病態を絶えず考慮することが必要です。そうすることで診断エラー/”cognitive wrong turn”を避けることができるのです。

 < CLINICAL PROBLEM-SOLVING >ではタイトルに診断プロセス、診断結果、病態などに関連した“オチ”、“洒落”が示されて、読者の我々は結構楽しませてもらってます。今回はanomaly / “a wrong turn”とcognitive error / “cognitive wrong turn”が掛けられていました。数年前、当院救急外来を主訴・胸痛で受診した女子児童さんの心電図・胸部誘導に、まさかの顕著なST上昇変化を認めて慌てたことを思い出しました。診断はやはりSTEMI/ACSだったのですが、追加の病歴聴取で幼少時の川崎病罹患が明らかとなりました。昨日のことのように思い出されます。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>