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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case22

2023.6.21

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 Case 18-2023

A 19-Year-Old Woman with Dyspnea and Tachypnea 20.06.2023

 19歳女性が呼吸不全でM.G.H.に搬送されました。3週間前に右肩と右側腹部に疼痛を自覚しました。2週間前になると労作時の呼吸苦と咳が出現しましたが6日後にクルーズ旅行に参加・出発しました。8日間の旅の終わりには歩く際にもひどい呼吸苦が出現して車いすが必要となりました。Massachusettsについてすぐ別の病院の救急を受診しました。体温は37.1℃、血圧133/47、心拍132、呼吸数は40、SpO2は室内気で88%でした。見た目具合悪そうで努力呼吸しています。聴診で心雑音を認めました。検査所見ではtroponin T正常、 NT-BNP24913(5-125)でした。胸部CT所見では心嚢液と胸水、多中心性の肺陰影がありましたが肺動脈血栓症はありませんでした。心エコー検査では左室EFは25%、顕著なARと大動脈起始部の膿瘍が疑われました。血培を提出、nasal high-flowで酸素投与されて、furosemide, vancomycin, ceftriaxone, azithromycinが静脈投与されM.G.H.のCCUに転送されました。到着時にはBIPAPが装着されていました。家族によりますと彼女は半年前から間欠的に背部痛を訴え、2か月前にSARS-COV-2感染症を経験しました。5週間前に歯科診療を受けています。クルーズ航海中に2回の下痢(発熱無し)を認めました。2週間前に彼女が前胸部の拍動を自覚したと聞いて、就寝中に努力呼吸を認めました。既往歴に不安症と貧血があります。鉄剤を内服しています。薬剤アレルギーはありません。喫煙、飲酒歴はありません。Massachusettsに家族と暮らして、保育の仕事に従事しています。家族歴に心臓病、自己免疫疾患はありません。体温36.8℃、心拍118、血圧145/58(右腕) 136/65(左腕)、呼吸数48、SpO2 100%(BIPAP-FIO2 0.7)でした。努力呼吸で間欠的に咳をします。心基部で2/6の収縮期雑音、4/6の漸減性の拡張期雑音を認めて心尖部に放散します。S2 gallopはなし。carotid and subclavian bruitsが明らかでした。両肺でraleを聴取、呼吸音は減弱していました。頚静脈圧は8cmH2O、両側末梢の脈に左右差はありませんでした。検査所見ではtroponin Tは正常、血沈1時間値は77、CRP147.8(<8.0)、血培が提出されました。心電図で洞調律、特記すべきST-T変化なし。心エコーでは軽度の左室拡張、左室収縮は”diffuse-hypo.”、EFは34%でした。A弁は3尖弁、vegetation、abscessは明らかでありません。A弁の高度閉鎖不全を認めました。大動脈は拡張、径は44mm、壁肥厚を認めました。軽度から中等度の僧帽弁閉鎖不全を認めて左房は軽度拡張していました。中等度の心嚢液を認めましたがタンポナーデ所見はありませんでした。CT-angiographyでは大動脈の壁不整と大動脈弓と腎動脈に狭細化を認めました。全週性の壁肥厚が大動脈起始部から上行、弓部、下行、腹部の大動脈に明らかで、大動脈弓から分枝する血管の近位部にも顕著でした。

DIFFERENTIAL DIAGNOSIS

 M.G.H.内科のPerugino先生の解説です。本例は若い女性が亜急性の経過で発症して肺、僧帽弁、大動脈弁、心筋、心嚢、大動脈に病変を認める炎症性疾患の像を呈しています。鑑別の考え方は多臓器病変を来す炎症性疾患なのか、原発性大動脈の炎症性病変が弁、心臓、肺病変を説明可能なのかということになります。

VALVULAR DISEASE

 心エコー検査でARは明らかでしたが弁尖の肥厚はなく、疣贅、穿孔も認められませんでした。血栓性、感染性、炎症性の弁疾患はそれらしくありません。

MYOCARDIAL DISEASE

 左室不全が明らかですがtroponin T値は正常でした。volume overloadからくる急性弁障害が疑われます。

PULMONARY DISEASE

 すりガラス陰影からは肺の血管炎が疑われますが、画像所見もちょっと異なります、血痰は認めません。EF低下による左室不全、肺水腫が疑わしいと思います。

AORTIC DISEASE

 大動脈の変化は連続性、全周性、広範囲にみられて、粥状硬化による変化と異なります。

INFECTIOUS AORTITIS

 本例は大動脈の炎症を伴い、これが感染性或は非感染性の原因によるのかを考察することが重要です。感染性である場合には早急な治療介入が必要となります。感染が原因とするには発熱なく、経過も激烈とは申せません。大動脈病変もその局在が異なります。第三期梅毒も大動脈炎を合併しますが、全身症状が異なります。

NONINFECTIOUS AORTITIS

 以下の三病態について考えます。

Giant-Cell Arteritis

 高齢者に好発して、報告では50歳台が最若年発症です。平均発症年齢は70歳台或は80歳台といわれており、本例はそれらしくありません。

 Takayasu’s Arteritis

 50歳未満の年齢で大動脈を侵す血管炎の最もcommonな病態といわれていますし、通常は40歳未満の女性に好発します。比較的長い連続性病変もきたしますし、狭窄を伴う多発病変の形も呈します。動脈瘤を合併しますし、大動脈起始部拡張による2次性の大動脈弁閉鎖不全を来すことも良く知られています。

Systemic Autoimmune Disease

 IgG4関連疾患は60台に好発して男性優位、多臓器を侵しますが大動脈も病変として知られています。比較的潜在性に進行して本例の経過と異なります。他の全身疾患で大動脈炎を合併する疾患としてはSLE、rheumatoid vasculitis、sarcoidosis、Cogan’s syndrome、Behcet’s disease、ankylosing spondylitis、granulomatosis with polyangiitis、relapsing polychondritisなどがありますが、いずれも特徴的な臨床像を認めます。

CLINICAL IMPRESSION CARDIOVASCULAR MNAGEMENT

  本例の臨床像と、画像診断所見から診断としてはTakayasu’s Arteritisが考えられ、大動脈起始部拡張による大動脈弁閉鎖不全を合併して量負荷による心不全を来していると推定されました。保存的治療による効果が得られずに、第3病日に生体弁による外科的弁置換術が実施されました。

PATHOLOGICAL DISCUSSION

 術中に得られた、切除大動脈弁と大動脈生検の病理組織所見では炎症は顕著でなく、他特記すべき異常所見を得られませんでした。かといってTakayasu’s Arteritisを否定できるものとはなりません。

DISCUSSION OF MANAGEMENT

 Takayasu’s Arteritisには病態の活動性を正確に反映するmonitorとなるようなbiomarkerがなくRCTで証明された確固たる治療はありません。しかし知られているように緩解導入には中等量から大量の副腎皮質ホルモンが使用され(本例も第2病日からステロイド大量療法がされています)、効果を得られますが6~12か月の期間で漸減して緩解を維持することが困難であることが少なくありません。という訳でmethotrexate, azathioprine, mycophenolate mofetil等の免疫抑制剤が併用されます。uncontrolled studyですがTNF-α inhibitors(infliximab, adalimumab)やinterleukin-6 inhibitors(e.g., tocilizumab )が前記免疫抑制剤よりも良好な効果を得ています。本例では経過中にglucocorticoidとmethotrexateが併用されて、最終的にadalimumabに変更、緩解が維持されています。外科的な介入(IVRも併せて)は全症例の50%近くに実施されています。

 Takayasu’s arteritisは本文解説中にもありますが、発生頻度がUnited Statesでは100万人当たり0.9~2.9人、日本では同40人といわれ、圧倒的に日本に多くみられる疾患として知られています。今から100年以上前に(1908年)金沢医学専門学校(金沢大学の前身)で眼科学の教授をしていた高安右人先生が、この病気の患者について初めて報告したことをから、「高安動脈炎」と呼ばれているのだそうです。因みに投稿された論文は「奇異なる網膜中心血管ノ変化ノ一例」.日本眼科学会雑誌1908; 12: 554-555. だそうです。そんな病名の謂れについて考えてみても感心することが多くなりました。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>