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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case30

2023.8.16

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 Case 24-2023

 A 43-Year-Old Man with a Pulmonary Nodule 15.08.2023

 43歳の男性が偶然見つかった肺の結節性病変の評価にM.G.H.のmultidisciplinary Pulmonary Nodule Clinic 集学的肺結節クリニックに来院されました。患者はPanama在住でColombiaのかかりつけ医を健診目的で受診しました。彼には濃厚な癌の家族歴があり、画像診断を希望されました。全身の造影CT所見で右肺中葉の結節性病変12x13mmが発見されました。畜尿中5-hydroxyindoleacetic acid値と血中chromogranin A値は正常で大腸内視鏡検査に異常を認めませんでした。FDG-PETではFDGが肺結節にuptake value3.8の値で集積を認め、更に右側の下傍気管、気管分枝下、肺門の正常サイズの各リンパ節にFDG集積を認めました。右肺門リンパ節では(径8mm)最大uptake value値が6.7でした。男性は米国内での精査を希望されてM.G.H.のmultidisciplinary Pulmonary Nodule Clinic 集学的肺結節クリニックに紹介されて受診しました。特記すべき症状なく、既往歴にはGERDを認めるのみです。3年前に実施された胸部単純写真と腹部超音波検査に異常を認めませんでした。常用薬なし、薬物アレルギーありません。現在は保険会社で就労、過去には介護師としての職歴があります。南アメリカ生まれで5年前から中央アメリカ在住です。奥さん、愛犬と都会で暮らしています。北米、中米、南米、カリブ海のすべての国に旅行して、4年前にはAlascaからPanamaまでをバイクで旅行しています。半年前にはColombiaからChileをバイクで旅行しました。東・西ヨーロッパ、北アフリカ、地中海、太平洋諸島の数か国を訪れています。アクティブに運動して週4回以上weight lifting 、bicyclingをします。この2年間に毎日2箱のタバコ、3か月に1箱の葉巻を喫煙しています。家族歴は濃厚な癌家系です。身体所見に特記すべきことなく、BMIは27.1。リンパ節を触知しません。一般検査所見に特記すべき異常を認めませんでした。

DIFFERENTIAL DIAGNOSIS  M.G.H.内科のAngela J. Frank先生の解説です。M.G.H.では径6mm以上の肺結節が見つかった場合には患者さんはPulmonary Nodule Clinicでの評価を受けます、そこには呼吸器内科、呼吸器外科、腫瘍内科、腫瘍放射線科、interventional radiologist、nursing practitioner、access nurse navigator、タバコ外来の専門家たちが所属しています。本例については肺結節の成因について炎症性、腫瘍性、感染性、夫々の側面から考察したいと存じます。

INFLAMMATORY CAUSES サルコイドーシス、誤嚥、IgG4関連疾患、慢性関節リウマチ、血管炎(e.g.,granulomatosis with polyangiitis)、アミロイドーシス、炎症性腸疾患、免疫不全症候群などが考慮されます。この中で本例では肺門リンパ節に集積を認めたFDG-PET所見からはサルコイドーシスを最も考える必要があるでしょう。しかし詳細な画像所見をみるとサルコイドーシスには合致しません。

BENIGN LESIONS 孤立性肺結節の中で良性疾患としてhamartomaをしばしば経験しますが、FDG集積を伴うリンパ節所見が合致しません。

INFECTIOUS CAUSES  本例の居住歴、旅行歴からは多くの感染症が考察されます。

 肺結節を呈する細菌感染症の中ではnocardiosisがありますが一般的には免疫不全症に合併します。本例の職業歴も考慮して肺結核は考慮されなければなりませんが、通常病変は上葉にみられます。本例においては最も真菌症が考えられて、なかでもcryptococcosisは考える必要がありますが、免疫不全を伴うことが多いですし、結節は肺野末梢に認められます。blastomycosisは免疫不全の無い人に潜在性に感染しますがMississippi River Valley或はOhio River Valleyが流行地で、一般に縦隔・肺門リンパ節腫大をきたしません。coccidioidomycosisは感染者の60%は不顕性で、自然治癒する肺炎をきたし、肺結節の呈する可能性もあります。肺癌スクリーニングで見つかると鑑別に困窮します。paracoccidioidomycosisは暴露後数十年たって発症することもあり、結節は大小、何れの肺野にも発症して不整形を呈します。histoplasmosisヒストプラズマ症は10%で咳、発熱、呼吸困難を伴う急性肺炎を合併します。5%には関節痛、関節炎、結節性紅斑、多型紅斑を認めます。レ線的にはdiffuse patchy opacitiesと縦隔・肺門リンパ節腫脹が特徴的です。

 慢性例では空洞形成肺病変や縦隔肉下種症/縦隔線維症を合併することもあります。ヒストプラズマ症はしばしば肺結節を合併して、肺癌との鑑別が問題となる真菌症と報告されています。肺の孤立性結節を呈する場合には診断困難となる可能性があります。培養はうまくゆきません。病理組織学的に所見が得られる可能性があります。播種性疾患、或は急性疾患の場合は尿、血清、BAL液の抗原検査が有用となるケースがあります。抗体検査は初感染後数年は陽性となりますが参考となります。本例は患者背景、病状を考慮するとヒストプラズマ症など肺真菌症をもっとも疑わせます。

ONCOLOGY EVALUATION CT検査で偶然発見される肺病変では診断として常に肺癌が懸念されます。詳細な画像診断と癌リスクなどの患者背景が診断に役立ちます。前駆病変としてatypical adenomatous hyperplasia、carcinoma in situがあります。最も多い肺癌は腺癌で非小細胞癌のなかには扁平上皮癌が数えられます。神経内分泌肺癌の中にはカルチノイド腫瘍、小細胞癌、大細胞癌があります。夫々に特徴的な画像所見もありますが、生検組織診断が必要となります。転移性肺癌の原発病変は肺、大腸・直腸、腎、膵、乳、精巣などでしょうか。更に絨毛癌、Ewing’s sarcoma、悪性黒色腫、骨肉腫、甲状腺癌と数えられますが、やはり組織診断が必要です。

RADIOLOGY EVALUATION CTガイド下経皮的肺針生検は肺、肺門、縦隔、胸膜、胸壁の病変に有用です。肺病変では径1cm以上が必要です。細胞診、組織診他、培養、スメア検査にも有用ですが、気胸、出血、空気塞栓、腫瘍の播種などの合併症が危惧されます。

THORACIC SURGERY EVALUATION 本例の肺・縦隔病変の組織診断にはいくつかのアプローチが考えられます。最初に考えられるのは超音波気管支内視鏡検査と経気管支的針吸引組織・細胞診です。次には縦隔内視鏡検査となります。病変が小さい場合には”electromagnetic navigation bronchoscopy”が有用かもしれません。”robotic bronchoscopy”、或は”shape-sensing technology”も最近開発されています。本例では超音波気管支内視鏡検査と経気管支的針吸引組織・胞診、縦隔内視鏡検査が実施されました。

PATHOLOGICAL DISCUSSION 本例ではstation 4Rの縦隔リンパ節生検が実施されて特徴的な所見よりヒストプラズマ症の診断となりました。血清、尿検体での抗原検査は陰性でしたが抗体検査は陽性でした。

DISUCUSSION OF MULTIDISCIPLINARY CARE U.S. Preventive Services Task Force guidelineでは50-80歳台で20-pack-year以上の喫煙歴のある、或は現在喫煙中の人にはlow-dose CTが肺癌スクリーニングに推奨されています。そして本例のように発見される肺結節は急増しています。これまでこれら肺結節への対応は必ずしも適切でない場合もありました。そういった背景で2012年にM.G.H.ではPulmonary Nodule Clinicが開設されました。本例にみられるように、そこでは集学的な対応・管理が実施されています。本例は無症状で、全身的な病状はないことから、感染症チームの判断で無治療・経過観察されることになりました。7か月後の再検査では肺結節は径14mmから7mmに縮小しています。

日本でのヒストプラズマ症について国立感染症研究所National Institute of Infectious Diseases NIIDで調べてみるとこんな紹介がありました。「現在までに本邦で27 例の報告がある。以前、日本での感染例はないと思われていたが、最近国内感染例が疑われる患者が報告されはじめてきた。本邦報告例のうち、興味ある2 例を示す。1つは米国テキサス州の黒人から死体腎の移植を受けた患者が全身性ヒストプラスマ症を起こして死亡した例、もう1つはテレビ取材班がアマゾンの 洞窟内の撮影を行ったとき、コウモリの糞に付着していたH.capsulatum を吸い込み8名全員が感染した事故である。なお、本菌のテレオモルフ(有性世代)はAjellomyces capsulatus McGinnis et Kats 1979である。」興味深い記事ですよね。最近経験した肺結節の3か月の経過(炎症性腫瘤と考えています)・CT画像も供覧しました。

< 伊東ベテランズ 川合からの報告です >