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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case37

2023.10.17

CLINICAL PROBLEM-SOLVING 17.10.2023

Digging into the Histology 17.10.2023

 University of Chicago Medicineからの出題です。潰瘍性大腸炎でJanus kinase inhibitorであるtofacitinib治療を受けている33歳の男性が倦怠感と血性下痢を主訴に来院しました。この8か月の間に倦怠感が進行しました、そして下痢の頻度も増加します。4か月前からは39.2℃までの発熱、顕著な寝汗が出現して体重減少23kgを認めました。2週間前からは便意切迫を伴う日6から9回の液状便、血便、夜間覚醒を認めており、咳、排尿障害、関節痛、皮疹はありません。

 彼の症状である発熱、寝汗は感染症、悪性腫瘍、既知の潰瘍性大腸炎、或いは他の炎症性疾患等を示唆します。持続、そして悪化する血性下痢は、tofacitinib療法の経過中に起こった潰瘍性大腸炎の再燃もあり得ますが、知られているCMV感染の合併なども考慮されます。鑑別すべきものとしてtofacitinib療法が結核などの重篤な合併症を有することにも留意が必要です。持続する血性下痢が鉄欠乏性貧血と脱水につながり倦怠感の原因となっている可能性があります。

 本例は7年前に左側大腸型の潰瘍性大腸炎と診断され、当初は経口、経肛門的なメサラジン投与により治療され寛解しています。5年前に潰瘍性大腸炎は再燃して治療がadalimumabの皮下注とazathioprineの内服に変更されて完解します。Adalimumab治療前に結核に対してinterferon-γ release assayとHBsAg, HBcAbの陰性が確認されました。患者はupper midwestern USで穀物運搬業に2週間前まで従事していました。11年前と13年前にAfghanistanに兵役で従軍しています。ステロイド治療歴なく、他の内服薬はありません。喫煙は15年前に止めています。2か月前に施行されたS状結腸鏡検査では下行結腸から直腸までの中等度活動性病変を認めており、生検で異形成、肉芽腫、ウィルス封入体は認めていません。2週前からadalimumabに替えてtofacitinib療法が開始されています。

 adalimumabのようなtumor necrosis factor α (TNF-α)阻害薬は潰瘍性大腸炎の多くの患者に有効ですが、結核、リステリア症、播種性真菌症などの感染リスクがあがります。

azathioprineはEBV感染に関連する悪性リンパ腫を発症することがありますし、稀ですが肝脾T細胞性リンパ腫を発生する可能性もあります。tofacitinibもまた感染症のリスクになり、特に帯状疱疹、悪性腫瘍発症のリスクとなります。しかし本例の病状はtofacitinib療法開始前に発症しています。

 身体所見で体温37℃、心拍117、血圧109/77。不快は無さそうで、急性期には見えません。口腔潰瘍なく、肺聴診所見正。腹部に圧痛なく、腸音正。肝脾腫なく、リンパ節を触知せず。末梢血白血球数1100(neutro.66%, lymph.13%, mono18%, eosino.2%)、Hb4.7、MCV100(82-96)、血小板数61000、iron20μg/dl(40-160)、TIBC170(230-430)、ferritin1863(20-300)。血清Na125, K3.7, TP5.4, albumin2.6(3.5-5.0), CRP67(<5)でした。

creatinine, thyrotropin値は正常でした。3単位の赤血球液が輸血されました。

 活動性の潰瘍性大腸炎は鉄欠乏性貧血を合併しますが、本例に見られるferritin高値とTIBC低値は慢性炎症性疾患に伴う可能性があります。azathioprineは汎血球減少症、巨赤芽球症の原因となります。結核菌感染、真菌感染、或いはCMV, EBVのようなヘルペスウィルス感染症が骨髄抑制を来すこともあり得ます。

胸部単純写真ではdiffuse reticulonodular opacitiesがみられて、腹部CT検査所見では下行結腸、直腸の全周性の壁肥厚を認め、便中C. difficileのPCR検査は陰性、血清CMVのPCR検査は陰性でした。便中一般ウィルスに対するPCR検査は陰性、細菌、寄生虫、即ちnorovirus , salmonella, cryptosporidium, giardiaなども陰性です。血清EBV-VCA IgGは陽性で同IgMは陰性。血清HIV-Abは陰性です。細菌、真菌、抗酸菌に対して血培が提出されて、血清1,3-β-D glucan検査が出されました。第3病日に患者の容態は急変して、全般性の腹痛、腹満、筋性防御が出現しました。心拍は119、血圧119/78、末梢血白血球数は2300、同Hb8.7、Na128, K3.8, CRP109, lactic acid2.4mmol/ l(0.5-2.0), 1,3-β-D-glucan67(<60)でした。

 CMVのPCR検査が陰性であったことは全身性感染については否定的ですが、CMV大腸炎を鑑別するためには生検が必要と思われます。EBVに関する検査結果は急性感染に否定的です。胸部単純写真にみられたreticulonodular opacitiesは非定型抗酸菌、真菌感染などを示唆します。1,3-β-D glucan検査はcandida, aspergillus, Pneumocystis jirovecii, Histoplasma capsulatum, coccidioidesのような1,3-β-D glucanを細胞壁に有する微生物には有用で、high negative predictive value・陰性的中率を有します。一方cryptococcus, blastomycesなどはほとんど細胞壁に有しないために 血清1,3-β-D glucan検査は陰性となります。         

第3病日に患者さんの様態は急変して腹部全体に疼痛を訴え、腹満と筋性防御が明らかです。心拍は119、血圧109/78、末梢血白血球数2300、同Hb8.7、血清Na128, K3.8, CRP109, lactic acid2.4(0.5-2.0), 1,3-β-D glucan67pg/ml(<60)でした。

 様子からは消化管穿孔が疑われました。血清lactic acid値の上昇は腸管虚血・穿孔が懸念されます。更に本例の発熱、汎血球減少症、胸部単純写真からは深刻な感染症が疑われます。血清1,3-β-D-glucan検査は進行した肝疾患、潰瘍性大腸炎のような腸管の透過性障害を有する場合には擬陽性になり得ます。しかし、本例がTNF-α阻害薬療法による免疫抑制状態にあること、住まいの地理的要因、職業歴などを病像と併せて考えると、H. capsulatum感染症が強く疑われます。

腹部単純写真では一部拡張した(6.9cm)大腸係蹄と、遊離ガスが明らかとなりました。腹部・骨盤CTが経口造影剤投与後に撮像されて、S状結腸・直腸壁の全般的な肥厚と陽間膜内へ遊離ガス像、S状結腸からの造影剤の腹腔内漏出が明らかとなりました。消化管穿孔の診断で緊急手術となり、開腹所見では全大腸炎、と直腸前壁での大きな穿孔部位が確認されて、全結腸切除術、回腸吻合がされました。更にトライツ靭帯から20cmの空腸にも穿孔を認め、空腸吻合が追加されました。切除標本の病理組織学的所見では空腸、大腸に肉芽腫を認め、大腸には周囲との境界明瞭な潰瘍形成が直腸穿孔部をとり巻いて明らかでした。Grocott-Gomori染色とperiodic acid-Schiff染色でH. capsulatumが明らかとなりました。抗酸菌染色では陰性、CMV封入体は認められません。術後3日目の尿中histoplasma抗原は陽性でした。complement fixation assayではmycelial antigen, yeast antigen何れにもhistoplasma抗体陽性でした。術後間欠的なせん妄が出現しましたが髄液検査は正常、histoplasma抗体検査は陰性でした。術後liposomal amphotericin Bの静注投与が 2週間されて後に経口itraconazole投与に替わりました。大腸は切除されたので潰瘍性大腸炎に対する投薬は中止されました。itraconazoleは2か月投与された後にCTで肺病変の改善傾向が確認された後に中止となりました。この時点で体重は12kg増量しており、発熱なく、汎血球減少症も回復しています。回腸瘻も機能しています。 

 <COMMENTARY>

  H.cogniaは汚染物質が吸入されると感染し、肺でmold stateからyeast stateに転換して、この時点で肺胞マクロファージに貪食されることになります。多くのケースでは無症状、或いは軽症で自然経過して治癒します。多量の暴露例や免疫不全例では播種性感染となります。標準的な診断は培養、或いは病理組織学的にhistoplasmaが証明されることですが、細胞壁に含有されるgalactomannan antigenが酵素免疫検査で証明されると診断の可能性が高いと考えられます。尿中或いは他の検体によるgalactomannan antigenが証明されることと血清抗体検査が併用されることで感度は高まります。流行地では強く意識した病歴聴取が必要となります、即ち、鳥や蝙蝠の糞への汚染土壌を堀返す仕事(digging in soil)、鳥小屋の清掃、洞窟内での就業、建造物解体業などに注目することです。本例は穀物運搬エレベーターを操作する際に吸入した可能性も考えられます。症状は非特異的で(発熱、体重減少、倦怠感など)疑うことが重要となります。histoplasmosisは多臓器を侵しますが、最も多いのは肺病変で小顆粒状陰影がdiffuseに拡がるのが特徴です。消化管ではポリープ様隆起と潰瘍を形成してIBDと似た所見を呈します。大きな集計報告でみると剖検例では70%に消化管病変を認めたとしていますが、臨床的に病状を呈したのはわずか12%だとされています。播種性ヒストプラズマ症において消化管穿孔例は稀な合併症です。中で高頻度な局在は終末回腸と近位側大腸です。中等度から高度のヒストプラズマ感染症に対する治療はliposomal amphotericin Bの1から2週間静注療法と引き継いてitraconazoleの12か月以上の経口投与です。臨床像と検査結果が正常化するまで続けられます。本例では潰瘍性大腸炎患者が非典型的な経過を呈する際に、別の大腸炎を合併している可能性を考慮する必要性を明らかにしていると思われます。

 ヒストプラズマ症については今年M.G.H. Case Recordsの中で既に抄読しています(Case 24-2023: A 43-Year-Old Man with a Pulmonary Nodule 15.08.2023)。日本では相当稀な疾患ですが、M.G.H. Case Recordsの中では度々鑑別診断として取り上げられる感染症です。今回は感染リスクである” digging in soil” と、診断の手掛かりとなった”Digging into the Histology”をタイトルとしてかけているようです。経過中に大腸穿孔をきたして緊急手術・大腸切除がされて、病理組織学的にヒストプラズマ症が診断された訳ですが、急変(大腸穿孔)する前、内視鏡的に”Digging into the Histology”が成されていたら外科手術が回避されたのに・・・と私は考えてしまいます。

<伊東ベテランズ 川合からの報告です>