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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case8

2023.3.7

CLINICAL PROBLEM-SOLVING

 今年(2023年)第2回の<CLINICAL PROBLEM-SOLVING>の紹介です。Brigham and Women`s Hospital内科からの出題と解説です。

A Rocky Resurgence 07.03.2023

 70歳の女性が2か月の経過で進行する右上腹部痛を主訴に来院されました。痛みは比較的鈍で、中背部、下腹部に放散します。2週間前から痛みは持続的になりました。間欠的な発熱、発汗、吐き気、食思不振、倦怠感をこの2週間に自覚しており、半年で9kgの体重減少を認めます。既往歴には高血圧、脂質異常症、逆流性食道炎があります。退職した教員で、喫煙・飲酒歴、薬物使用歴はありません。内服薬はlisinopril, simvastatin, omeprazole, acetaminophenです。薬物アレルギーはありません。家族歴に高血圧以外に特記すべきことありません。アルバニア出身で3年前にUSに移住しています。アルバニアを時々行き来して、腹痛もアルバニア滞在中に発症し、3週間前に帰国しています。アルバニアではたくさんのペット犬と共に都会、農地に囲まれる郊外で過ごしていますが、牛、ヤギ、豚への接触歴はありません。結核の既往はなく、暴露歴もありません。3年前に胸部単純写真で偶然に右上腹部の石灰化を認めています。身体所見では体温36.5℃他、バイタルに異常なし。BMIは19。発汗を認めますが比較的元気な様子です。黄疸なく、リンパ節を触知せず。心肺に異常なし。腹部は右上腹部、心窩部に圧痛と軽度防御を認めます。肝脾腫なく腫瘤を触知しません。一般検査所見では末梢血WBC6500, Hb10.2,  MCV85.6, Plate520000。

 血清学的にはALP194(<130), CRP6.7(<3), ESRは29(<18)で、他特記すべき異常ありませんでした。腹部造影CT所見で肝右葉に径7cm大?、石灰化を伴う低吸収腫瘤(cystic lesion)を認め、肝鎌状間膜の石灰化もありました。という訳で追加聴取しますと生乳や非加熱乳製品の摂取歴はありませんでした。結核に対するInterferonγ release assayは陰性、血性学的検査でEchinococcusやアメーバ・E. histolyticaも陰性でした。血性アグルチニンテストでBrucellaは陰性でした。結局、肝嚢胞性腫瘤に対してCTガイド下にcore needle biosyが実施されます。膿性内容が吸引され、検鏡では白血球を認めるも病原微生物は明らかでありませんでした。EmpiricalにPIPC-tazobactam, vancomycin投与が開始されました。吸引検体の細胞診では細胞壊死を示す石灰化小片をみますが寄生虫、悪性腫瘍の所見はありませんでした。生検検体の病理組織所見では肉芽腫性炎症と乾酪性肉芽腫がみられました。

 抗酸菌染色と銀染色(真菌検索?)は陰性でした。血液、吸引検体の培養では好気性・嫌気性菌、真菌は何れも陰性、結核菌培養が提出されました。生検検体のPCR検査でBrucellaが検出されました。結果、aminoglycoside based regimenを患者が拒否したので、doxycycline+rifampinの経口投与が3か月を予定に開始されました。副作用により、結局doxycyclineはciprofloxacinの経口投与に変更されました。2か月後には症状は改善、画像診断で肝病変は縮小傾向にあります。1年後に検査結果は正常化しています。

 大変苦労しましたが、診断はBrucella症(肝Brucelloma)でした。人畜共通感染症として知られており、ヤギ、羊、牛、豚、そして犬に感染するといわれています。USでは感染家畜の殺処分や家畜のワクチン接種、乳製品の加熱化などにより減少して年間100件の報告があるのみです。一方、中南米、地中海地方、東南アジアが尚流行地です。感染動物への暴露や非加熱乳製品の摂取で感染するので獣医師、農業従事者、屠殺業者、動物関連の研究施設の関係者には注意が必要となります。Brucella菌は取り込まれたMacrophageの空胞中に生き残り、Macrophageの細胞死後に免疫回避が成されることになります。行き着いた網内系(骨髄、リンパ節、肝脾など)で増殖します。症状としては本例にみられるような全身症状が急性・慢性に発症し、間欠的な”waxing and waning”な発熱から波状熱”undulant fever”とも呼称されます。全ての臓器が障害される可能性がありますが関節炎、椎体炎による後遺症が問題となることがあります。女性では自然流産、男性では精巣上体炎の報告もあります。自然経過で治癒する症例から心内膜炎、中枢神経系への感染により死亡する症例まで多様です。本例のように診断に難渋する症例があります。血培と血清学的検査が提出されなければなりませんが、何れも感度40%との報告もあり確実ではありません。膿瘍内容の培養も同様です。骨髄の培養が比較的高感度(80-95%)と報告されています。血清アグルチニン検査は抗原/抗体量のバランスで偽陰性、擬陽性になる可能性があるそうです。ELISA法は慢性/急性の鑑別をIgG/IgM抗体の測定により有用であるし、特に神経ブルセラ症等の慢性、或は複雑性感染の場合にはより診断能が高いと報告されています。PCR法と16S rRNA gene sequencingは感度・特異度ともに高く、診断、治療効果のモニタリングに使われます。治療としてはMacrophage vacuole中菌体への移行を考慮して、抗菌薬の長期投与が必要となります。Doxycycline6週間の経口投与に加えて、当初にaminoglycosideの1週間経静脈投与の併用が勧められています。治療効果が若干減弱しますがdoxycycline+rifampinの経口投与6週間も可能です。doxycyclineの替わりにfluoroquinolonesの使用も可能です。複雑性感染合併例についてはceftriaxoneを加えた3者による治療4~6週間が推奨され、6か月投与が必要となるケースもあります。本例にみられた”Brucelloma”に対しては抗菌薬単独では75~80%が無効とされて、外科的介入や経皮的ドレナージが必要となります。本例にみるように、Brucella症については流行地関連、或は感染の可能性のある症例に対して、分子(遺伝子)的検査まで診断を追及する態度が必要だとの結論でした。

 

 Brucella症って日本にあるの?とすぐに思いましたが、日本で見つかるBrucella症はやはり海外からの来日症例だそうです。日本では家畜へのBrucella感染もほとんど確認されてないようですが、犬には現在も発見されると報告されます。

 さて今回の”お題”・タイトル ”A Rocky Resurgence ”、ロッキーの復活って何?。毎回< CLINICAL PROBLEM-SOLVING >のタイトルには臨床的な課題・特徴が洒落・皮肉を込められ出来ていて、それだけでも大変楽しませてもらっているのですが、今回の英語の意味が我々には難解でした。もはやレジェンドとなったシネマのヒーロー/ボクサーRocky Balboaがリングに繰り返し立ち上がる姿を、困難な確定診断に挑む臨床側の態度にダブらせているのでしょうか。もしかして、逆にしぶとく生き残るBrucellaのこと?。Rockyの叫ぶ”I love you, Adrian !!”の声が聞こえてしまう私はやっぱり”歳”なのでしょうか。

< 伊東ベテランズ 川合からの報告です >