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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2024

2024.6.19

Case 18-2024: A 64-Year-Old Woman with the Worst Headache of Her Life 18.06.2024

  64歳の女性が人生で最悪な頭痛と訴えて救急外来に来院されました。コンドミニアムでのミーティングにおいて意見を述べようと立ち上がった時に突然発症しました。会話不能で吐気を合併してEmergency Medical Service(EMS)が呼ばれM.G.H.に搬送されました。体温は36.6℃、血圧157/77、脈拍77整、呼吸数16,SpO2 96%、意識清明で神経所見を含む身体所見に異常を認めませんでした。発症後2時間で撮影された頭部CTで左側頭頂葉、頭頂葉傍中心脳槽にくも膜下出血を認めました。疼痛コントロールとしてmorphineとpromethazineが経静脈投与されました。吐気は収まり、頭痛は消失します。血圧は135/45となりました。血液検査所見で炎症マーカーは陰性、troponin T0.36(<0.03)ng/mlでした。心電図ではⅠ度AV-blockとdiffuse  submillimeter  ST-T segment depressionを認めました。

< DIFFERENTIAL DIAGNOIS > Beth Israel Deaconess Medical Center救急科のJonathan A. Edlow先生の解説です。64歳の女性が公衆の前で話そうと立ち上がった際に突然発症したひどい頭痛でした。頭痛の程度と時間経過は所謂”thunderclap headache”・雷鳴頭痛と呼称される頭痛に一致します。理学所見と血液検査・炎症マーカーに異常は認めませんでしたが、血清troponin値が著増していました。発症後2時間に撮影された頭部CTでは後頭部頭頂葉にくも膜下出血・convexity subarachnoid hemorrhageを認めました(基底部脳槽周囲に出現する動脈瘤性くも膜下出血と少し異なります)。鑑別診断は3つのclue(手掛かり)を基に考えます。即ち雷鳴様頭痛、頭頂部くも膜下出血、そしてtroponin値上昇です。

 IDENTIFING THUNDERCLAP HEADACHE 救急外来を訪れる症例の2%が頭痛を訴える症例と言われ、頭痛症例の15%が”thunderclap headache”・雷鳴頭痛だと報告されています。thunderclap headacheの原因を考えるうえで重要なのは動脈瘤破裂によるくも膜下出血です。International Headache Societyでは“thunderclap headache”を、突然発症する非常に強い頭痛で、痛みの程度は1分以内でピークに達して5分以上継続する、そして他に原因が明らかでないと定義されています。この定義に従いますと時間経過から動脈瘤破裂によるくも膜下出血は見誤る可能性が生じます。本例では疼痛コントロールがmorphineとpromethazine投与によりされ、頭痛は軽快しています。疼痛コントロールは鑑別診断にも有用で、併存する高血圧が疼痛によるものであればコントロールにより高血圧は改善するでしょうし、脳障害や虚血性脳症によるものであればコントロールされても高血圧は改善しない傾向があります。thunderclap headacheは原因検索と並行して疼痛コントロールがされるべきです。

ANEURYSMAL SUBARACHNOID HEMORRHAGE 治療効果と診断を誤った時の負の結果を考慮すると、最も“見逃せない”診断は動脈りゅう破裂によるくも膜下出血と言えます。そして罹患率も高く死亡率も高い疾患であります。本例には来院時収縮期高血圧があり、この病状に合致しますが、よく言われる頚部痛や髄膜刺激症状は病像初期には必ずしも必発ではありません。来院時神経障害を認めない症例の頻度は5-7%と報告されています。頭部CTが最も有用で、発症後6時間以内ではその感度は現在100%と報告されています。本例に見られたconvexal  subarachnoid hemorrhage症例の原因はほとんど動脈瘤破裂によるくも膜下出血でありませんが、やはりCT angiography撮影は必要と思われます。

   REVERSIBLE CEREBRAL VASOCONSTRICTION SYNDROE (RCVS) RCVSは時間的に変化する可逆性の頭蓋内動脈の狭細化と、女性に比較的多いことが特徴です。動脈瘤破裂によるくも膜下出血ほどに有名ではありませんが、thunderclap headacheの原因として8%と報告されています。thunderclap headacheという名詞も歴史的にみるとRCVSに由来するようです。頭痛は数日から数週間続く(繰り返す)と報告され、情動的、肉体的、医療的、薬物的な誘因があるとされます。本例では、不慣れな公衆面前での発言が誘因になった可能性があります。更にRCVSの凡そ35%にconvexal subarachnoid hemorrhageを合併すると報告され、外傷を除くとconvexal subarachnoid hemorrhageの最も多い原因に数えられます。

  CEREBRAL VENOUS SINUS THROMBOSIS (CVST) CVSTでは15%にthunderclap headacheを合併するとされ、convexal subarachnoid hemorrhageの合併も報告されます。本例ではエストロゲン製剤の内服というリスク要因も有しています。

  ARTERIAL DISSECTION 動脈解離ではthunderclap headacheの合併は比較的稀ながら、convexal subarachnoid hemorrhageを合併するという点で注意が必要です。一般には出産後女性に多く、出血よりも虚血性脳障害を合併する傾向があります。thunderclap headacheについては頚動脈系で3.6%、椎骨動脈系で9.2%の合併と報告されています。本例では合わない点もありますが動脈解離を否定はできません。

  POSTERIOR REVERSIBLE ENCEPALOPATHY SYNDROME (PRES) PRESもconvexal subarachnoid hemorrhageとthunderclap headacheをきたす比較的稀な原因となります。しかしながらPRESではthunderclap headacheは通常徐々に発症しますし、痙攣、視野異常、情動異常をしばしば合併します。

  ACCOUNTING FOR THE TROBLESOME TROPONIN LEVEL 本例では血清troponin値が正常上限値の10倍の高値を認めた点とthunderclap headacheの合併を考慮すると大動脈解離と急性心筋梗塞に注目する必要があります。が、何れも臨床像が異なります。何よりconvexal subarachnoid hemorrhageを合併しません。血清トロポニン値高値の原因は本例ではRCVSに合併した、たこつぼ心筋症が最も合致するように思われます(動脈の狭細化は頭蓋内に限りません)。たこつぼ心筋症1750例の集計報告では、その90%が女性発症例で、平均年齢は67歳でした。本例はたこつぼ心筋症を合併したRCVSが最も疑わしい診断ですが、動脈瘤破裂によるくも膜下出血を鑑別する意味でもCT angiographyの実施が望まれます。

  ACCOUNTING FOR THE TROBLESOME TROPONIN LEVEL 本例では血清troponin値が正常上限値の10倍の高値を認めた点とthunderclap headacheの合併を考慮すると大動脈解離と急性心筋梗塞に注目する必要があります。が、何れも臨床像が異なります。何よりconvexal subarachnoid hemorrhageを合併しません。血清トロポニン値高値の原因は本例ではRCVSに合併した、たこつぼ心筋症が最も合致するように思われます(動脈の狭細化は頭蓋内に限りません)。たこつぼ心筋症1750例の集計報告では、その90%が女性発症例で、平均年齢は67歳でした。本例はたこつぼ心筋症を合併したRCVSが最も疑わしい診断ですが、動脈瘤破裂によるくも膜下出血を鑑別する意味でもCT angiographyの実施が望まれます。

 < IMAGING STUDIES > CT angiographyでは頭蓋内動脈の複数分枝に狭細化が明らかとなりました。動脈瘤、静脈洞血栓症の合併はありませんでした。MRI所見では急性期脳梗塞は認めず、腫瘤性病変は明らかでなく、左側頭頂葉、後頭葉にくも膜下出血を認めました。

 < DISCUSSION OF MANAGEMENT > RCVSの画像診断では正常なこともありますが、入院患者の30~70%に異常を認めるとされ、convexal subarachnoid hemorrhage以外に脳内出血、脳梗塞、一過性脳浮腫が報告されています。出血についてはischemia- reperfusion injuryの関与が示唆されます。可逆性のけいれん発作が20%に合併するとされ、他に皮質盲、脳症、失語、片麻痺、失調といった神経症状が2/3の症例にみられると報告されます。2%の症例が進行性の動脈攣縮を合併して致命的となると報告されています。血管攣縮に関連して、たこつぼ心筋症、一過性全健忘、PRESの合併も報告されています。

頻度は百万当たり2.7、入院10万当たり0.02とされますが、実際には更に多いことが予想されています。そしてPRESとprimary thunderclap headacheの合併例が除外されています。平均年齢は42~51歳、小児の報告例もあります。病態生理としては脳セロトニン系や同交感神経系の異常が指摘されています。誤診として片頭痛に注意が必要で、triptan剤や抗片頭痛薬の投与は動脈攣縮を悪化させる可能性があります。臨床像と画像診断が類似したprimary angiitis of the central nervous system (PACNS)については必要のない脳生検やステロイド投与が懸念されます。RCVSではステロイド投与はミネラルコルチコイド作用により比較的禁忌とされています。診断にはRCVS2スコア、 或いはRCVS-TCHスコアが有用とされ、本例ではRCVS2スコア10点で診断に合致します。PACNSとの鑑別も併せて経動脈的血管拡張薬投与の有効性が議論されますが、副作用としてreperfusion injuryによる死亡例の報告もあります。麻薬製剤やオピオイド投与による鎮痛は有用です。バルサルバ法はthunderclap headacheを増悪させます。発症時血圧については様々で、昇圧剤は頭痛を悪化させ、降圧剤は脳虚血を増悪するために使用に注意が必要です。本例では収縮期血圧が180mmHgを超えず使用していません。カルシウム拮抗薬と静注マグネシウム投与が試みられるもエビデンスは得られていません。本例は心エコー検査で心室壁運動異常を認め、たこつぼ心筋症と診断されました、頭痛の改善を認めて第2病日に退院となります。しかし感覚障害と頭痛再燃を認めて再入院、新たな脳梗塞とconvexal subarachnoid hemorrhageの増悪を認めて、リスクを考慮の上にverapamilの動注療法がされて効果を得ています。抗血小板、抗凝固療法は実施していません。第8病日には退院となり、以後thunderclap headacheは認めません。

 64歳の女性が突然発症した”生涯最悪の頭痛”を訴えてM.G.H.のERに搬送されました。我々臨床医が最も緊張する場面の一つです。所謂”thunderclap headache“・雷鳴頭痛と呼称される病像です。我々がすぐに思い付く病態は動脈瘤破裂によるくも膜下出血ですが、この論文では”thunderclap headache“・雷鳴頭痛を訴える病態の詳細な鑑別診断が解説されています。還暦過ぎた老いぼれ臨床医の私でも緊張感を持って読めましたし、今更ながら知識と経験の整理に役立ちました。若い皆様にも是非一読をお勧めします。

< 伊東ベテランズ 川合からの報告です >