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CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 Case 10-2023
A 27-Year-Old Man with Convulsions 11.04.2023
27歳の男性が痙攣を主訴としてM.G.H.に入院となりました。2年前に初めて体幹、上下肢の震えが4・5分間持続する形で出現して、前駆症状として頸部に放散する鋭い背部痛と眼のぼやけ、動悸、吐気、混乱がありました。受診はせず、その後20週間は同様エピソードは出現しませんでした。4か月前にパーティーで飲酒中にまた同様エピソードが起こります。突然固まって倒れ、震え(痙攣)がおよそ5から8分持続します。尿失禁を伴いましたが舌咬症はありませんでした。救急搬送された他院での頭部CTと40分以上観察されたEEGに異常を認めませんでした。levetiracetam投与が開始されて、神経内科でフォローアップされることになりました。3か月前の診察で患者さんはlevetiracetam内服にもかかわらず痙攣発作を週一の頻度で繰り返したと話します。脳のMRI所見に異常を認めませんでした。lamotrigineの追加投与が始まりました。しかし痙攣エピソードに著変ありませんでした。1か月前になると今度は仕事場で倒れ、体幹、四肢に”shaking and clenching”が2分程の持続であるのを同僚たちに発見されます。救急搬送された別病院では2回の痙攣発作が出現しました。うち一回では医師が患者さんの肩に手を置くと痙攣の程度が軽減して、同離すとまた強度が戻るという現象がありました。閉眼していましたが、眼瞼挙上すると眼振、偏視はありませんでした。医師が眼瞼から手を放して閉眼する際に、眼球が挙上する”Bell’s phenomenone”が明らかでした。喋りませんが、手を握り返すなどの従命は可能でした。イベントは数時間続きましたが自身の強い希望で帰宅されました。この1か月患者は2剤服用を堅持しましたが痙攣発作は週1から3回に頻度が増加しました。今回の入院当日、やはり仕事場で患者さんは急に語りを止め、四肢の震えが出現して同僚達が救急要請しました。救急隊現着時に患者さんは自力で立ち上がり、救急車に歩行して乗車、M.G.H.に搬送されました。来院時バイタルに特記すべき異常なく、覚醒しており、瞬目反射は保たれていました。体幹・四肢は強直しているようでした。間欠的な不整な身体の震えを認ましたが従命可能で、ゆっくりですが手足を動かすこともできました。腱反射正常、全身に熱傷後の瘢痕を認めました。45分程振戦様の震えが持続しましたが会話は可能でした。聴取しますと、効果に疑問があり2剤を3日間止めていました。
来院当日朝に調子良好も後に頚部に放散する後頭部痛が始まり、突然の目のぼやけ、全身の感覚鈍麻、混乱が出現しました。痙攣エピソードが出現して20分程持続しましたが、患者さんはイベントを自覚しており、時に難聴を認めました。気分はすこぶる良く、脱力も倦怠もありませんでした。精神症状やそう状態。自殺念慮、そして脅迫観念・行為を認めませんでした。既往歴として幼少時の熱性けいれん、運動時に数回の脳震盪歴があります。6歳まで社会的に恵まれず、家族から虐待を受けています。虐待の内容は不詳です。幼少後期に自宅の火事による全身熱傷で長期入院歴があります。気管支喘息と大うつ病、post-traumatic stress disease(PTSD)、広場恐怖症によるパニック障害があります。escitalopramを常用してパニック障害にlorazepamを頓用しています。恋人がいます。喫煙歴なく、違法薬摂取歴ありません。年内に一度マリファナ吸入歴あります。飲酒は週一程度。父親は患者が10代の時に心臓病で死亡、母親に統合失調障害と症候性てんかんがありました。血清検査所見ではlactate2.4mmol/l(-2.2), CK489U/l(-400)でした。血清、尿中の中毒物質パネルは陰性、心電図洞調律、患者さんは入院となりました。
<DIFFERENTIAL DIAGNOSIS>
M.G.H.神経内科・精神科のPerez先生の解説です。本例の鑑別診断について以下の5つのカテゴリーについて考察しました。
- EPILEPSY
- PAROXYSMAL MOVEMENT DISORDER
- INTOXICATION AND WITHDRAWAL SYNDROMES
- CONVULSIVE SYNCOPE
- FUNCTIONAL NEUROLOGIC DISORDER
1)最初の病院で本例が対応された時にleading diagnosisとしてはepilepsyとされて高痙攣薬(levetiracetam)が投与されました。効果が不十分とlamotrigineが追加されています。通常てんかん発作は持続時間が2分以内とされて本例は非典型です。痙攣重積状態は痙攣の持続が5分を超える場合、或は5分以内の痙攣が間欠的に繰り返す場合を示します。
てんかん痙攣の場合は血清CK値、lactate値が顕著に増加すると指摘されています。単回のEEG異常は20~50%と指摘されています。
2)意識下(覚醒下)での痙攣として発作性運動障害が考慮されますがほとんどが若年発症で遺伝性ありとされています。
3)既往歴、中毒物質パネルに特記事項ありません。随伴身体所見・頻脈、発汗、同好所見などを認めません。
4)本病態での痙攣は通常1分以内で意識消失を伴います。本例の心電図には異常を認めませんでした。
5)本例のエピソードは機能性運動障害として数えられる”functional seizure”機能性てんかんに一致します。痙攣イベントの強度が随伴者の有無に左右される傾向があり、持続時間もてんかん痙攣に反して5分以上持続する例が多いとされます。更に本例にも見られたように附随・前駆する身体症状があり、頭痛、動悸、吐気、混乱などです。幼少時の虐待や
精神障害は必ずしもてんかん痙攣との鑑別診断上有用となりません。必須ではありませんが幼少時の虐待が機能正運動障害にはよくみられます(しかしてんかん痙攣にも見られます)。そして機能性てんかんの5人に1人はてんかん痙攣を併せ持つという事実に注意が必要です。EEG所見も併せて本例の診断は機能性運動障害と考えられ、「International League Against Epilepsy」が参考になります。
本例は入院して抗痙攣薬中止の状態でvideo EEG monitoringが実施されて3回のイベントが確認されましたが、EEG所見に異常は認められませんでした。
<DISCUSSION OF MANAGEMENT>
抗痙攣剤に効果はありません。外来での治療はeducation, engagement, continued assessment, medication for coexisting conditions, psychotherapyだとされます。機能性てんかんについて、そのメカニズムについて本例と充分なdiscussionを神経内科、精神科両面から実施ました。機能性てんかんは”brain-mind-body overload”と説明できることを説明しました。併存する大うつ病合併にbupropion内服を開始、11か月後にはPTSD症状として夜間悪夢、(それら)日中の回想、顕著な解離dissociationを自身で理解可能となり、prazosinの追加内服を開始しました。PSYCOTHERAPYとしてcognitive and dialectical behavioral therapyが重要です。そしてこの病態には複雑性、多様性が重要です。COMPLEX TRAUMAに対する考察が必要です。機能性てんかんはcomplex traumaの症状として理解されます。complex traumaとは繰り返し蘇る、感情的に抑制困難な、或いは対処できない人生のストレスとしての心的外傷traumaということです。そしてcomplex traumaを有する人は自己同一性(”me-ness”)障害を来たすとされます。本例には愚直に寄り添い傾聴するといったpsychotherapyが辛抱強く実施されました。本例は徐々に自身の経験を理解・統制できるようになりました。neuro-psychiatric careとpsychotherapyを今も継続しており、常勤職として働いています。しかし頻度は減じましたが現在も尚機能性てんかんを時に発症します。
痙攣を繰り返す27歳男性についての症例報告でした。今回の抄読会は我々(私?)にとってはちょっと”challenging”なものでした。functional neurological disorder・機能性神経障害は私が知らなかった新しい言葉です。調べてみますと、従来使用されてきた身体表現性障害/転換性障害(精神的な問題が身体障害として表現・転換される病態)という精神科領域で頻用されてきた言葉の発展形でしょうか。過敏、こだわりなどの生来の気質に精神的・肉体的ストレスがtriggerとなって運動異常や感覚障害が発症するメカニズム・脳内ネットワークの存在が病態生理として認知されるようになりました。そしてこの病態が精神科領域のみならず、多分に神経内科領域の疾患としてとらえられるに至ったようです。まさしく本例に代表されるような病状、病態と考えられます。解説されているPerez先生の所属もM.G.H.の神経内科・精神科となっています。病態生理の理解も病状への対応も本当、むずかしいもんだ!が、今回の感想です。
<伊東ベテランズ 川合からの報告です>