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CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 Case 14-2023
A 31-Year-Old Man with Redness of the Right Eye14.05.2023
31歳の男性がM.G.H.の救急外来で右目の発赤を主訴に診察を受けました。8日前に肛門周囲のちょっとした発赤と肛門痛に気付きました。症状は2日間続いてM.G.H.の救急外来を受診しました。患者はこの一月に2人の男性と性交渉歴があります。診察すると肛門周囲の有痛性浅い潰瘍と小胞を認めます。両側鼠経リンパ節の有痛性腫大を認めます。human immunodeficiency virus(HIV), gonorrhea, chlamydia, syphilis, orthopoxvirusについて検査が提出されてvalacyclovirが投与され帰宅となりました。2日前に結果が明らかとなり、梅毒反応が陽性でrapid plasma reagin(RPR) testが提出されました。小胞液のPCR検査でmpox virusが検出されました。患者は電話連絡されて救急外来に呼ばれました。診察すると肛門周囲と同様な皮疹が胸腹部、背部にも出現しています。発熱、悪寒、倦怠感、頭痛も認めます。サル痘の診断でtecovirimatが処方されsexual health clinicを紹介されました。2日後に患者は右眼の痛みを訴えてまた救急外来を受診しました。聞くと2日前から症状は出現して増悪していると言います。痛みの程度は10/10です。Tecovirimatを内服して発熱、悪寒、頭痛は消失、肛門痛も改善傾向にありました。既往歴では5年前に梅毒に対してペニシリン注射治療がされています。男性パートナーが一月前にサル痘と梅毒と診断されていることがわかりました。閉眼下に右眼球の圧痛が軽度あります。診察すると右眼は結膜が顕著に充血しています。眼瞼結膜を袢纏して観察すると濾胞が顕著でした。角膜、強膜、ブドウ膜、光彩、レンズに著変なく、視神経に異常を認めませんでした。
M.G.H.内科のBarshac先生の解説です。本例、即ちサル痘と診断された男性の結膜炎について型どおり、感染性、非感染性の原因を考察して、更に”oculogenital syndromes”について考察します。
NONINFECTIOUS CAUSE OF ACUTE CONJUNCTIVISアレルギー性結膜炎と中毒性結膜炎(例えば眼軟膏などによる)考慮されるが否定的。
BACTERIAL INFETONS成人にみられる結膜炎の20%といわれます。膿性滲出物が想定されるも感度、特異度共に高いとは言えません。まつ毛にかさぶたを認める、或いは掻痒を伴うなどが特徴になります。
VIRASL INFECTIONS成人にみられる結膜炎の75~80%を占めるとされます。水様の滲出液が特徴とされます。Adenovirusによる咽頭結膜炎や流行性角結膜炎が有名で前耳介部リンパ節の腫大が特徴的です。herpes simplex virus(HSV)やvaricela zoster virus(VZV)も考慮されますが、水泡や、三叉神経領域病変が特徴です。更にenterovirus infection, measles, mumps, rubella, SARS-COV-2, Ebola virus disease, mpox, 他も結膜炎を来しますが。診断を狭めるためにsexually transmitted infection(STI)について考察します。
OCULOGENITAL SYNDROMES
syphilis, mpox, HIV infection, gonorrhea, chlamydia等について考慮されなければなりません。
GONORRHEA AND CHLAMYDIA
Gonorrheaはhyperacute onset、耳回周囲リンパ節腫脹、視野狭窄が特徴です。穿孔を含んだ角膜障害を来します。C. trachomatis infectionではsubacute onsetで片眼性、粘液膿性滲出液が数週から数か月間続きます、耳介周囲の有痛性リンパ節腫大、眼瞼に濾胞が認められるのが特徴です。
MPOX
眼病変の合併については最近のoutbreak(2022~2023)では比較的少なく、過去のoutbreakで小児に多く認められると報告されています。本例に見られる所見が特徴的です。
tecovirimat内服中の発症例の報告もあります。
SYPHILIS
常にSTI関連の眼病変において考慮されねばなりません。視力消失の可能性が憂慮されてしかもtreatableであることがsyphilisを考慮する大事な点だと思います。RPR testが4倍以上の値で陽性である必要があります。
以上からはmpox conjunctivitisが最も疑わしい診断だと思います。
DIAGNOSTIC EXAMINATION / MPOX RELATED OPHTHALMIC DISEASE
本例にみられる眼病変はmpox関連眼病変の典型例と思われます。確定診断には眼病変のswab或はbiopsy検体でのPCR検査が有用です(本例にもPCR検査がされたのでしょうか??)。眼病変は皮膚病変などからの手を介した自家移植による感染が疑われており、過去に小児で比較的多発した眼病変合併に関連している可能性があります。
DISCUSSION OF MANAGEMENT
サル痘は皮膚病変が有名ですが、以外に肛門病変が6-36%に認められ、出血などの直腸炎症状がみられると言われています。10-21%に咽頭炎、喉頭蓋炎、潰瘍性扁桃炎を、41-85%に頸部、鼠径部の有痛性リンパ節腫大を伴うと報告されています。他に稀ながら、脳炎、脳脊髄炎、心筋炎、肺炎などの報告例があります。recovirimatはFDA に認可されていませんが最も良く使用されている抗ウィルス薬です。
tecovirimatには抵抗性が言われていますが、本例では皮膚病変が速やかに反応しているのでそれらしくありません。眼病変に対する効果が遅れるケースの報告もあります。角膜病変を合併する場合には経過が遷延化することがあるかもしれません。
FOLLOW-UP
本例はmpoxの診断が成されてから感染防御の面から3日ごとのビデオ診察がされました。行政的には自宅隔離が勧められており、最初のビデオ診察の際に眼痛は消失しており、発赤も改善傾向にありました。しかし左眼に疼痛と発赤が出現しました(恐らく自家移植によると想像されました)。2週間後に皮膚症状は消失して眼の発赤も改善傾向にありました。行政からの勧告では症状消失するまでの隔離が言われており、本例は追加2週間の内服の後、症状は全て無くなり隔離解除となりました。
サル痘のoutbreakは2022-2023年のことで相当ホットな話題です。昨年のN ENGL J MEDのCASE RECORDSに掲載されたreportを抄読した記憶があります(Case 24-2022:A 31-Year-Old Man with Perianal and Penile Ulcers, Rectal Pain, and Rash)。そしたら今度はサル痘結膜炎。本当、学術誌N ENGL J MEDってリアル、ダイナミック、ホットな臨床的、実践的雑誌だなあ、と感心させられます。
<伊東ベテランズ 川合からの報告です>