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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case31

2023.8.22

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会Case 25-2023

Case 25-2023: An 18-Year-Old Man with Fever and Foot Pain 22.08.2023

 Dravet syndromeを有する18歳男性が発熱と繰り返す痙攣を主訴にTufts Medical Center (T.M.C.)に入院となりました。生後6か月時に発症した難治性痙攣の評価時に、sodium channelα1 subunit (SCN1A)を発現する遺伝子の変異によるDravet syndromeが診断されています。患者さんには発育遅滞を認めて発語障害、や視力障害(歩行はゆっくりで転倒するために補助者を必要とします)を合併しています。今回の入院2か月前に両親が転倒後の足関節の腫脹に気付きました。前医の救急外来を受診してレ線的には異常なしとされました。2週間前に左足関節腫脹は増大してDravet syndromeの定期検査に併せて実施したMRI検査所見で脳の萎縮、蝶形骨洞、前頭洞内の粘膜肥厚、および足骨の多発性骨髄浮腫が見つかりました。骨折、変位、関節包液はありませんでした。副鼻腔炎の可能性を考慮してamoxicillinが投与されました。7日前に患者さんが左足関節の更なる腫脹と熱感に気付きました。体重をかけると違和感があり、体温は38.3℃でした。5日前になると左足関節には痣がみられT.M.C.の救急外来を受診しました。発熱なく、元気そうで、左足関節には先述の如く所見を認めます。末梢血WBC5870, Hb11.6, CRP23.9(0.0-8.0)、血沈22/h(0-13)でした。レ線的には左中足骨と方形骨の骨折と脱髄を認めました。装具が使われ帰宅しました。㏤間は非協力的傾向がみられ、痙攣が頻回となりました。入院前日には体温38.1℃、かかりつけ医によりamoxicillinがamoxicillin-clavulanateに変更されました。痙攣頻度は増えたままで、救急外来を受診しました。両親から追加聴取しますと鼻閉、鼻汁、咳はみられません、以前からあった歯肉炎が悪化しており、出血を伴います、鼻出血もありました。ketogenic dietが痙攣に対して実施されており、食物アレルギーを考慮して胃管から投与されています。軟便があり、両親は経管栄養のためだと考えています。排便習慣に変化無く、入院前の週に2階の嘔吐歴を認めます。7か月前に発熱、嘔吐、排便回数増があり、COVID-19感染と診断されました。Ketogenic-dietが4日間半量に減量されて症状は消失しました。内服薬はamoxicillin-clavulanate, cannabidiol, clonazepam, famotidine, glycopyrrolate, levocarnitine, multivitamin, potassium citrate, phosphorus, lorazepamです。薬物アレルギー歴はありません。父親、2匹の猫とNew Englandの都会に暮らし、時々New Englandの郊外で母親と暮らします。 バイタルサインに特記事項なく、BMIは 20.8。弱っているように見えますが協力的です。筋量は減量して緊張も低下傾向です。歯肉は発赤して出血を伴います。齲歯が数本あって、副鼻腔に叩打痛ありません。腹部には胃瘻造設されていますが挿入部に発赤はありません。尿検査でketon++、血液検査ではCRP74,末梢血WBC7300, Hb10.2, Plt228000でした。咽頭ぬぐい液のウィルス・パネル検査は何れも陰性、便のCD抗原、CD toxin検査は陰性でした。胸部単純写真で右肺底部に班状影を認めました。骨の画像診断では先述所見に加えて左第1中足骨近位、第4・5中足骨遠位に骨硬化像を認め新たな骨折を疑わせます。市中肺炎の診断で補液、ampicillin-sulbactamが経静脈投与され入院となりました。入院後7日間は発熱なく、頻脈を認めました。血培は陰性、CRP108.1まで増、D-dimer6953(0-500)と増、末梢血Hb7.0と貧血がしました。

更に遠位側の頸骨・腓骨に骨の浮腫が数カ所に出現しています。これまで認められた骨折に加えて骨内嚢胞状出血が踵骨、法脛骨、第2中足骨に認められました。第8病日に体温は38.0℃、無痛性の斑状紫斑が指、手、腕、つま先に出現しました。

DIFFERENTIAL DIAGNOSIS  T.M.C.小児科のDaniel A. Rauch先生の解説です。Dravet syndromeを有する18歳の男性が発熱、痙攣頻度の増加を主訴に発症しました。2か月の経過の中で左足の腫脹、疼痛、痣が進行します。MRI所見では複数の骨に骨髄浮腫を認めました。結局diffuseな骨の脱石灰化と多発骨折が明らかになりました。検査結果では貧血、CRP値、血沈の高値が顕著です。まずはDravet syndromeについて考えましょう。

DRAVET SYNDROME  Dravet syndromeは繰り返す痙攣が特徴で高体温で惹起されます。発育遅滞を伴い、発語障害、脱力を認めます。失調を認めることがあり、転倒をきたします。自律神経障害を合併することもあり、本例の間欠的発熱、頻脈を説明するものかもしれません。

BONE MARROW EDEMA MRI所見でみられた骨髄浮腫は多くの原因が考えられます。外傷も原因となります。若年例を考慮すると骨関節炎はそれらしくありません。骨壊死のリスクはありません。手術や照射の既往もありません。強直性椎体炎のような炎症性関節症の臨床像でもありません。Complex regional pain syndromeと呼称される病態がありますが、刺激による疼痛、皮膚所見、足の冷感といった特徴が見られません。bone marrow edemasyndromeと呼ばれる原因不明の病態が一過性、有痛性で足、足関節にみられることがありますが、中年男性、股関節に好発します。ESR、CRPの高値もみられません。発熱を伴う骨髄浮腫の原因として感染症・骨骨髄炎と悪性腫瘍について考えます。

OSTEOMYELITIS 本例に臨床像は骨骨髄炎に合致しますが、細菌感染の門戸となる穿通性外傷や潰瘍を認めていません。菌血症は副鼻腔炎からの可能性がありますが本例では画像診断でされた暫定診断の副鼻腔炎で臨床像を伴っていません。皮疹(紫斑)と歯肉炎があり、感染性心内膜炎を考えるには血液培養陰性で、心弁膜症、留置カテーテルなどのリスクを認めません。骨骨髄炎では多発骨折や骨の脱石灰化を伴いません。

CANCER 骨髄への浸潤性疾患として白血病、原発性腫瘍として骨肉腫、Ewing’s sarcomaなどは臨床像が異なります。骨髄浮腫の鑑別からすると以上の一般的な原因はそれらしくありません。本例に見られた複数の出血傾向、即ち鼻出血、歯肉出血、歯肉出血、足に見られた痣、進行性の貧血がみられます。骨折部では画僧診断で骨内出血、経過中には紫斑がみられました。胸部単純写真で当初見られた肺病変は肺胞出血であった可能性もあります。本例にみられる出血傾向の原因は如何でしょうか。凝固検査の結果は彰kでありませんが末梢血血小板数は正常です。家族歴はなく、内服歴に特記すべきことありません。

 ketogenic dietはmultivitaminsが追加されることが通常ですが、このタイプの栄養がビタミン・栄養欠乏症をきたす可能性があります。実際、本例ではCOVID-19感染の際に経管栄養量が減じられています。

VITAMIN C DEFFICIENCY ビタミンC(アスコルビン酸)欠乏症では歯肉炎が特徴です。ビタミンCはコラーゲン生成の重要な補酵素となり、その欠乏症では特徴的な歯肉炎の原因となり、血管壁の脆弱性により出血傾向を来します。骨生成にも関与してその欠乏症は骨粗鬆症、骨折の原因となります。近年、ビタミンC欠乏症においてMRIで骨髄浮腫がみられると報告されています。更に発熱、情動変容を来すこともあり、本例では臨床像がまさしく合致することになります。

DIAGNOSTIC TESTING and DISCUSSION OF MANAGEMENT 血中のビタミンC値は0.1mg/dl以下(0.4-2.0)で鉄パネルより鉄欠乏性貧血が明らかでした。ビタミンB1(サイアミン)は68nmol/l(70-180)、ビタミンB6(ピリドキシン)は2ug/l(5-10)、25-hydroxy vitamin D値は23ng/ml()20-80)でした。ビタミンB2(リボフラビン)値、ビタミンB12(コバラミン)値、vitamin K値は正常でした。D-dimerが高値でしたが深部静脈血栓は超音波検査、CT検査で明らかとなりませんでした。追加情報からは両親が本例の嘔吐、下痢は経管栄養のためと考えて入院1か月以上前から経管栄養を減量していたことが明らかとなり、ビタミンも必要量を投与していなかった可能性が示唆されました。体重は6か月で4.7㎏減少していました。本例は当初経静脈的にビタミンCが投与されて1週間後には血中ビタミンC値が0.8mg/dlとなり胃瘻チューブからの投与に切り替えられました。他のビタミン類も補足投与されました。発熱は消失して33病日にリハビリ施設へ退院となりました。6か月後にはかかりつけ医を受診、回復しており、レントゲン的に骨変化も改善していました。

原因不明の全身的症状を呈する病態は代謝性疾患(ビタミン欠乏、微量元素・ミネラルの欠乏に代表される栄養障害、薬物・毒物による中毒)によることがしばしば経験されます。

M.G.H.のCase Recordsにも年に何例かが必ず登場します。実臨床では重要なcommon diseaseの一つかもしれませんし、現実社会では大きな問題です。本例は経管栄養例に発症したビタミンC欠乏症・壊血病(scurvy)の典型例です。耳慣れないDravet syndromeが背景にあるということで、抄読していると、つい複雑・稀な病態でないのかと悩んでしまいました。ベテランズ小児科・荒川先生が「Dravet syndrome、私も外来でフォローアップしているよ」と仰ってました。 

< 伊東ベテランズ 川合からの報告です >