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伊東ベテランズ

火曜朝の抄読会 2023-Case34

2023.9.26

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会 26.09.2023

Case 28-2023: A 37-Year-Old Man with a Rash 26.09.2023

 37歳の男性が皮疹を主訴にNew York University Langone Hospital(N. Y. U. L.H.)に入院しました。9日前に手足に連続性に拡がる皮疹が出現しました。3日間のうちに皮疹は腕、大腿に拡がり、更に鼡径、体幹、顔面まで進行しました。入院6日前には患者さんは喉のつかえ感、口唇の腫脹を訴えて前医の救急外来を受診しました。皮疹が発症する前日に患者さんはCOVID-19ワクチンを接種しています。バイタルサインと一般検査所見は正常とのことです。Dexamethasone, diphenhydramine, famotidineが投与されて輸液を受けました。

 次の3日間で症状は変わりません。入院当日に患者さんはN.Y.U.G.H.の救急外来を受診しました。口唇が痛くて開口障害があるといいます。嚥下、呼吸も軽度困難だと言います。皮疹は全身で集簇傾向を認め発赤も腫脹も高度となっています。軽度の掻痒感と痛みがあると言います。皮膚が“こわばる”と訴えます。全身的症状として顕著な倦怠感、衰弱、悪寒、寝汗を認め、陰性所見としては間欠的な吐気、腹痛、下痢、排尿障害を認めます。発熱、頭痛、咳、筋肉痛があり、関節痛はありません。既往歴に特記事項なく、常用薬なし、薬物アレルギーありません。南米の沿岸域に暮らして17年前にアメリカに移住しました。New Englandの郊外に多くの家族とペットと暮らしています。最近の渡航歴はありません、病人との接触歴はありません。職業は環境整備関連で物を扱う際は手袋をします。日に半箱x5年間の喫煙歴があります。飲酒歴はありません、違法薬の使用経験はありません。最後の性交渉は2年前で女性のパートナーとでした、コンドームは使用しません。家族歴に自己免疫疾患、皮膚疾患はありません。体温は37.1℃、血圧は138/92、脈拍105、SpO2 100%でした。裂創が口角にあり、咽頭は表面凸凹してますが粘膜病変は認めません。結膜に充血なし。頚部リンパ節腫は触知しませんが無痛性の鼡径リンパ節腫大があります。麻疹様の皮疹、丘疹、痂疲が上下肢、胸部、背部、顔面、頭部、鼠径部、ペニスに認められます。皮疹は集簇して手の背部、手掌に、足背・足底部にもみられます。皮膚の壊死、びらん、潰瘍、嚢胞、水泡を認めません。血算(WBC8340、neutro6430(1800-7700), lymph950(1000-4800))、mono440(200-1200),Eosino290(0-900))、電解質、腎機能、肝機能に異常を認めません。CRP16.7(<8.0, ESR30/hour(0-13), Total protein8.4(6.0-8.3), Globulin4.7(1.9-4.1), Albumin3.7(3.3-5.0)でした。

 <DIFFERENTIAL DIAGNOSIS>

  N. Y. U. L.H.内科のFrank M. Volpicelli先生の解説です。37歳の男性で全身に拡がる皮疹が主症状で、軽度ですが全身症状を伴い、一般検査所見でわずかですが血清globulin値が上昇しています。鑑別診断を考えるうえで皮疹について薬疹、感染症、そして皮疹が手掌、足底に及ぶ病態に注目したいと思います。

 COVID-19 VACTINATION REACTION 本例は症状発症1日前にCOVID-19ワクチン接種しているので、その関連性が懸念されます。通常は接種部局所での反応と全身症状を来します。時に蕁麻疹、発赤疹、胸部、頚部のつまり感といった即時型の過敏反応を呈する場合もありますが本例の臨床像とは異なります。

  CUTANEUS DRUG REACTION 本例にみられる麻疹様皮疹は最もよく認められる薬剤アレルギー反応、薬疹が疑われます。通常は開始された薬剤暴露から1・2週間後に発症しますが、過去に暴露歴がある場合は更に短期間の発症も考えられます。本例とは異なり、

 体幹に出現して遠心性に拡がるのが一般的です。多型紅斑は単純ヘルペス感染症に伴い発症しますが皮疹の形態が異なります。Stevens-Jonson syndromeやToxic Epidermal Necrosisも薬剤関連で発症して表皮のびらん、壊死を伴い、本例の皮疹とは異なります。

  INFESTIOUS EXANTHEM 感染症による皮疹としてはvaricella-zoster virus感染症や麻疹、手足口病などが考慮されますが臨床像も皮疹も様相が異なります。Covid-19感染症は麻疹様皮疹を含む多彩な皮膚病変を呈しますが、中には血管壊死に伴う“Covid toes”と呼称されるような病変も合併します。しかしながら本例は皮疹発症前には無症状でした。

  RASH AFFECTING THE PALMS AND SOLES 本例にみられる皮疹の特徴の一つは手掌、足底にも範囲が及ぶ点です。そしてこの特徴が鑑別を絞るきっかけになります。感染性心内膜炎、Toxic shock syndrome、Rockey Mountain spotted feverなどが候補になりますが臨床像が異なります。

  HIV INFECTION AND SYPHILIS 他に感染症として手掌、足底に範囲が及ぶ麻疹様皮疹を合併する疾患としてhuman immunodeficiency virus(HIV) 感染症と第二期梅毒が上げられます。急性或いは初期HIV感染症は合併する皮疹が本例に見られる皮疹の特徴に一致しますし、全身症状からも合致します。更にHIV感染症が疑われる場合には同時性に他の性感染症の合併も懸念されます。それらの中で第二期梅毒の皮疹は”lues maligna”と呼ばれる潰瘍を伴う有名な皮膚病変が知られていますが、最も頻度の高い皮疹は麻疹様皮疹です。全身症状も本例に合致します。

 <DIAGNOSTIC TESTING>

 本例にはcovid-19, gonorrhea, chlamydia,のPCR検査、HIV抗体、cytomegalovirus, Ebstein-Barr virus, hepatitis A, B, C virusの血清検査がされました。血液培養も提出されました。cytomegalovirus, Ebstein-Barr virusは既感染所見でした。他は全て陰性でした。HIV-1抗原とHIV-1, HIV-2抗体は陽性でした。HIV differentiation assay ではHIV-1に陽性でHIV-1感染症が確定して、血漿RNA viral loadは342000 copies/ml、CD4+ T-cell countは700/ml(500-1500)でした。CD4+ T-cell countが保たれていることより、本例は最近感染した可能性が高く、一方HIV differentiation assay でHIV-1抗体が陽性であったことより、seroconversionが認められて急性感染症には当てはまりません。本例にも見られたリンパ球減少症はHIV感染初期にも認められて、CD4:CD8 T-cell比も多くで反転します。梅毒の血清検査にはトレポネマ検査と非トレポネマ検査があり、前者が感染当初から感度が良く、特異度も高いことからスクリーニング検査に有用です。非トレポネア検査であるrapid plasma regain(RPR) testで本例は1:8と高度陽性で現感染が確認されました。検査結果からは梅毒のステージは明らかでありませんが、臨床像を併せると本例は第二期梅毒にあると考えられます。

  <DISCUSSION OF MNAGEMENT>

 本例の管理で重要な事の一つは完全で包括的な社会歴です。詳細な再聴取によると彼には最近別れた同性愛のパートナーがいたとのことです。HIV予防のためにtenofovir disoproxil fumarateとemtricitabineを内服していましたが、経済的な問題で中断したそうです。最後のHIV検査は2年前でした。我々の診断は第二期梅毒と初期HIV感染でした。梅毒に対してペニシリンの筋注が、HIV感染症に対してはガイドラインに沿ってbictegravir, tenofovir alafenamide, emtricitabineによるantiretroviral therapyが開始されました。治療開始翌日に39.6℃の発熱、頻脈、衰弱が出現して梅毒治療におけるペニシリンに対する反応、Jarisch-Herxheimer reactionを疑いました。2日間症状が継続した時点で播種性淋菌症やVZV感染症の合併を考慮しましたが自然経過で回復しました。本例は数週間の後に自宅に退院しましたが予定された外来フォローアップを受診されません。ケアチームの心配を他所に連絡がつきません。

 皮疹を手掛かりとして診断推論を展開することはよくあります。この中で血管炎や出血傾向による病態は比較的アプローチし易く感じますが、viral infectionや薬物などによる中毒診・アレルギーも併せてとなると広範で大変です。本例は手掌、足底に及ぶ紅斑という点に着目して感染症、HIV infectionと二期梅毒にたどり着きます。しかも結論としては性関連感染症としての同時感染でした。我々総合内科医としては基本に帰って漏れのない、系統だった鑑別診断を、文字通り愚直にそして確実にやってゆくという結論に達します。いつもながらのことですが今回も大変勉強になりました。

 <伊東ベテランズ 川合からの報告です >