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CASE RECORs of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会Case 5-2023
A 67-Year-Old Man with Interstitial Lung Disease, Fever, and Myalgia 21.02.2023
67歳の男性が発熱、筋肉痛、そして1回の嘔吐を主訴にM.G.H.に入院となりました。
本例は9か月前に咳・息切れを主訴に他院に入院してCOVID-19感染症/肺炎と診断を受けremdesivir, dexamethazone, nasal high-flow oxygenで治療されました。HOT(4L/min)が導入されて自宅に退院となりました。在宅で呼吸症状の悪化を認めて器質化肺炎、間質性肺炎の合併と診断されてprednisone, mycophenolate mofetil, pirfenidoneによる治療が開始されました。症状の改善はみられず、pirfenidoneは中止されて、prednisoneも2か月をかけて漸減されました。本例は今回の入院2週間前には肺移植の待機者に認定されます。入院2日前に40℃の発熱、他の前述主訴が出現して呼吸症状も悪化しましたがSARS-COV2抗原は陰性でした。既往歴にはGERD, 睡眠時無呼吸、そして4年前に前立腺癌手術歴があります。内服薬はalbuterol, calcium carbonate, cholecalciferol, ipratropium-albuterol nebulizer, mycophenolate mofetil, pantoprazole, prednisone, trimethoprime-sulfamethoxazoleです。少量の飲酒歴がありますが喫煙歴はありません。アレルギーなし。New Englandのrural areaに林のある5エーカーの広い土地に芝刈りをしたりして暮らしています。蚊にさされたことはありますがダ二咬傷の覚えはありません。元溶接工です。現症ではBMI24.8、体温36.6℃、呼吸数28、SpO2は酸素5Lカニュラで97%でした。両側肺底にcrackleを聴取します。軽度の努力呼吸です。検査結果ではβ-D glucan, galactomannanは陰性、Lyme disease, HIV検査、呼吸器viral panel 検査は何れも陰性でした。他、主だったところはHb/ WBC/ Plat14.0/5770/225000, neutro./lymph.4860/210, AST/ALT/ ALP/TBil 61/48/109/0.4です。胸部CTで肺気腫像と抹消優位の両側間質影と縦郭リンパ節腫大(以前に比して縮小傾向)と新たな傍食道リンパ節腫大を認めました。
M.G.H.内科のSampat先生が鑑別診断と解説をして下さいます。発熱、汎血球減少症、そして肝障害に注目します。即ちimmune activationとfeverについて考えます。
<FEVER>
発熱は原因としてinfection, cancer, inflammationです。前2者については明らかでなくinflammationを考えましょう。
<HEMOPHAGOCYTIC LYMPHHISTIOCYTOSIS(HLH) AND RECENCY BIAS>
私(Sampat先生)は発熱、汎血球減少症、肝障害と聞いてHLHを思いつきました、何故ならつい最近同様病状のHLH例をあるカンファレンスで経験したからです。 recency biasということになるでしょうか。HLHはフェリチンが高値を示しますが、本例のように白血球減少症を示すことは稀です。
<COMPLICATOION OF COVID-19>
COVID-19感染症は病状が回復傾向に向かう途中にnew inflammatory syndromeが発症することが知られ(小児ではKawasaki’s disease類似)、Multi-Systemic Inflammatory Syndrome in Children(MIS-C)として有名です。成人にも同様病態があり、Multi-Systemic Inflammatory Syndrome in Adult( MIS-A)と言われ、心疾患、皮疹、結膜炎がみられると報告されています。しかしながら本例はCOVID-19感染から9か月が経過しており、違うようです。
<INFECTION>
いま一度感染症について、まず呼吸器感染症についてPneumocystis jirovecii肺炎、真菌症が考慮されますが、否定的です。
<SYSTEMIC INFECTION>
呼吸器以外からの全身感染症についても再考してみましょう。傍食道リンパ節腫大は呼吸器が原因とは考え難く、食道、腹腔、或いは全身性の病態が示唆されます。全身性の感染症で発熱、汎血球減少症、肝障害を考える時にEBV, CMV, viral hepatitisはすでに否定的です。私はよく”Why now?”(今時と何か関係ある??)と疑うことで解決につながった経験があります。本例の最近のイベントに何か関連することがないでしょうか。本例は田舎に暮らして蚊、ダニへの暴露が疑われます。蚊、ダニが媒介する病原微生物として①Anaplasmosis, ②Ehrlichiosis,③Rocky Moutain spoted fever, ④Babesiosis, ⑤Arbo virus infection(West Nile virus infection, eastern equine virus encephalitis)が指摘されます。この中で本例の病状を最も説明可能となるのはAnaplosmosisとEhrlichiosisです。本例の居住地や特徴的な顕著なリンパ球減少を考慮すれば最も疑わしいのはAnaplasmosisということになります。Anaplasma phagocytophilumはシカダニが媒介する細菌ですが、シカダニはまたLyme disease(Borrelia Burgdorferi)とBabesiosisも同時に媒介することが知られており注意が必要です。
MICROBIOLOGIC DISCUSSION
本例はPCR法でAnaplasmosisが確定診断されます。末梢血スメアで顆粒球細胞質中に封入体が検鏡されることで診断も得られますが感度は低くなります。
DISCUSSION OF MANAGEMENT
Doxyciclineが効きます(resistanceも報告されていません、同時感染の可能性のあるLyme diseaseにも効きます)。本例はPCR結果を待つうちにも10日間の予定で投与されています。翌日に平熱化、数日で肝障害も正常化しました。Tetracyclineも効きますし、副作用がより少ないと報告されています。Rifamycinsも効きます。免疫獲得はなくて再感染の可能性があります。本例は良くなって一か月後に無事肺移植が施行されています。
またダニ咬症です。繰り返す“山あり、ダニあり”で笑えます。Thick borne diseaseといば日本ではツツガムシ病(病原体はリケッチアOrienta tsutsugamushi)、日本紅斑熱(病原体はリケッチアRickettsia japonica)、重症熱性血小板減少症候群(病原体はウィルスSFTS(Sever Fever with Thrombocytopenia Syndrome)virus)でしょうか、何れもマダニが媒介します。一言でマダニと呼びますが正式には“節足動物門狭角亜門クモ網ダニ目マダニ亜目ダニ科”!?に属するダニの総称だそうで、シカダニ、イヌダニ、ローンスターンダニ等が含まれるそうです/ウィキペヂア。伊豆半島でも最近日本紅斑熱の発症は”uncommon”ではありません。前々回勉強したのは原虫Babesia でした(日本で報告例あり、犬のバベシア症は獣医さんの間では”common”)。スピロヘータであるBorrelia burgdorferiによるLime disease、細菌であるAnaplasma phagocytophilum、もシカダニ(Ixodes scapularis)が媒介して人間に同時感染があります。Ehrlichiosis(病原体はリケッチア様細菌E. chaffeensis)もマダニが媒介します。因みにLime diseaseは日本で報告例がいくつもありますがAnaplasmosis、Ehrlichiosisの報告はありません(犬には報告があるようですしAnaplasma phagocytophilumは2006年に日本のマダニから分離確認されています)。日本で初のAnaplasmosisが地方病として日本で初めて伊豆半島で発症、報告される!なんてのもあり得るなあと感心しきりでした。大変勉強になりました。
<伊東ベテランズ 川合からの報告です>