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CASE RECORs of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITALに学ぶ会Case 2-2023
A 76 Year Old Man with Dizziness and Altered Mental Status 24.01.2023
76 歳の男性が街の歩道を這っているところを発見されて ER に搬送されました。 発見された時には蒼白、発汗が顕著で眩暈を訴えていました(迅速検査で血糖値は 127mg/dl )。 来院時に彼は状況を説明できません。傾眠傾向で“情動変容”も明らかです。かかりつけ医に電話して得られた情報では、既往歴として外傷性脳挫傷、PTSD (Post Traumatic Stress Disorder)、脊柱管狭窄症による慢性背部痛、高血圧、糖尿病、脂質異常、慢性腎障害、GERD(Gastro Esophageal Reflux Disease)、そして不安症があります。処方されている薬は lisinopril と transdermal lidocaine です。アレルギー歴 は なく、嗜好に飲酒はこの 40 年ありません。
診察すると意識の異常と27/分の頻呼吸以外にバイタルサインは正常です。 他の身体所見にも特記すべきことはありませんでした。 検査所見で は 、 BUN/Cre a 19/1.57 Lactate2.1(0.5-2.0) PT 35.9(11.5-14.5),D dimer2075(<500) Alterial blood gas (PH7.50 pCO2 21 pO2 68 bicarbonate16) といったところが異常値、電解質、尿定性試験に異常は認めませんでした。尿の中毒物質定性検査に特記すべきことはなく、心電図は洞調律です。画像診断で頭部 CT と同 MRI に新たな病変は見てとれません。胸腹部造影 C T所見に肺動脈血栓は明らかでなく、腺腫が疑われる左副腎腫瘤他に特記すべき異常を 認めませんでした。 脳波も確認されて特記すべきことありませんでした。ひとまず血培がなされて thiamine、生食が点滴されて入院となりました。
M.G H 内科の Granfone 先生の解説です。 情動変容と意識障害を呈する 76 歳の男性について、まずcommon そして”cannot” な鑑別診断が考察されて、更に本例に特徴的な身対所見と検査結果に注目して考えます。
鑑別診断として
①INTOXICATION OR WITHDRAWAL
②TXINS AND MEDICATIONS
③CEN TRAL NERVOUS SYSTEM DISORDER(encephalitis seizure 等)
④METABLIC DISORDER (hyper hypothyroidism malnutrition hypocalcemia 等)
⑤HYPERYENSIVE ENCEPHALOPATHY
⑥ W ERNICKE’S ENCEPHALOPATHY
等が考慮されますが、いずれも否定的です。
本例においてはHYPERVENTILATION AND RESPIRATORY ALKALOSIS があること、そして代謝性アシドーシスが併存することが注目されます。これらに加えて情動変容を認める場合には SALICILATE TOXICITY が強く疑われると考察されました。サリチル酸は内服薬だけでなく食品、ハーブ、サプリメント、そして塗り薬などにも含有されて、ものによると小さじ一杯にアスピリン21 錠に相当するサリチル酸が含まれるとの報告もあります。 重要な病態生理としてサリチル酸は延髄の呼吸中枢を刺激すること、細胞レベルでクレブス回路、酸化的リン酸化に介入して代謝性アシドーシスを来すこと、そしてフリーなサ
リチル酸は血液脳関門を容易に通過して情動変容、脳低血糖、脳浮腫を来たすということです。本例では血中サリチル酸値が測定されて56mg/d56mg/dl(<20)l(<20)と著高を呈しており診断が確定されました。サリチル酸中毒は若年者についてはoverdose, psychiatric condition, によるacute formが比較的多くみられ、聴取によりすぐに明らかになる傾向があります。一方一方chronic formとしては高齢者による自覚なしで慢性過剰摂取が認められる傾向が考慮されます。治療としては活性炭投与、下剤としてのpolyethylene glycolの経口投与が効果を認めます。尿のアルカリ化が有用で、重症例には(症状に関係なく血中濃度が 9 0mg/dl <でも)血液透析が適応となります。本例には bicarbonate が静脈内投与されて回復しました。追加聴取すると背部痛に対してアスピリン摂取量が漸増していたとのことでした。
診断はサリチル酸中毒でした。繰り返しますが、情動変容・意識障害を呈して呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスを同時に認める場合には 鑑別 診断として(もしかして first thinking” として)サ リチル酸中毒を考えるとのことです。総合内科を自負する(自負したい?) 我々還暦を過ぎたベテランも思いつかない診断で、地団駄を踏む思いです。動脈血液ガス分析結果を慎重に読み取る必要があったと反省させられました。
田中先生はボストンで小児科医をやっていた時に、アスピリンで治療中の川崎病小児に耳鳴り(サリチル酸中毒の兆候)の有無を確認する重要性を先輩から何度も 指摘されたことを思い出したと仰いました。そういえば、本例・現病歴の中に ”ringing in the ear”があったとの記載があります。解説では触れられていませんが・・ ・ 。今回も大変勉強になりました。
<伊東ベテランズ 川合からの報告です>